準備
私は百合の部屋を後にし、桔梗の元へと向かった。
最近桔梗は私に心を開いてくれて毎回会話をしてくれるまでになっていた。
「小三郎様」
「柚子葉か、ここのところ来なかったな」
私が来なくて少しいじけているのかな? ぶっきら棒な物言いが愛らしい。
「申し訳ございません。仕事が色々と立て込んでいて」
「忙しいのか……?」
「まぁ、少々。そんなことより小三郎様にお願いがあるのです」
「お願い?」
「はい。込み入った話なので中へ入れていただいても?」
「……入れ」
私は中へ入り、後ろ向きに座る桔梗の背後に跪いた。
相変わらず顔は見せてもらえない。
「小三郎様。今晩迎いのものを寄越しますのでその者に着いて外へ出ていただけますか?」
「なぜ?」
「家族が一緒に過ごすためです」
私のその言葉に桔梗は反応し、思わず振り返りそうになっていた。
「考えておいてください」
後は彼に委ね、私は桔梗の部屋を後にし屋敷を玄関に向き歩いていたところ、白竜殿の女官に呼び止められた。
来ると思った……。
その女官は百合付きの女官で、白竜殿に来た私を百合に毎度引き合わせてくれる者だった。
「柚子葉さんお久しぶりです。最近太師とよく一緒にいらっしゃるようですね?」
百合に指示されたのだろう、女官は世間話のように私と牡丹の様子を探ってきた。
「そうなのです。実はここだけの話ですが、今晩は北の山にある小屋で太師と会う約束をしているのです。太師はお仕事で遅くなるそうなので、それまで一人で待っていないといけなくて少し不安なんですよね」
牡丹に見初められ浮かれている女を演じ、女官へ今日の予定をそれとなく伝える。
女官はもう少し私達の間柄の話を聞きたそうにしていたが、私は忙しいと女官との立ち話を切り上げ、次の目的地へと向かった。
時間はあまりない。次は紫竜殿へ行かなければ――。
※
紫竜殿へ行き、そこの女官へ頼み紫苑に取次いでもらった。
滅多に会える人ではないが「夕霧の件で話がある」と伝えたらすぐに会う事が叶った。
水仙の第一夫人の紫苑は人払いをし、紫水晶のような目を少し嬉しそうに揺らしながら私を迎え入れてくれた。
「夕霧……懐かしい名ですね」
「紫姫様が監禁されていた勇者の脱走を手引きしたのですよね。何故彼に協力したのですか?」
雪羅は“協力者”の名前は明かさなかったが、この紫竜殿を通って外まで勇者を連れ出す事が可能なのは水仙を除いたら紫苑くらいしかいない。
「くだらないと思ったからよ……」
紫苑は目を細めながら眉間に皺を寄せた。
彼女は牡丹程の大きさの子供がいるとは思えない程実年齢より若く見えるが、時たま年相応の老けを感じることがあった。
「そうそう、彼は元気?」
「元気……とは言えないですね。大事な方を亡くしてしまったので」
「あら……可哀想に」
紫苑は眉を下げ、扇を口元に当てた。
「あの……、殿下や太師は夕霧をどうしようとしていたのでしょうか」
「それは私が言う事ではないから秘密……ただ、とっても馬鹿みたいな理由よ」
教えて貰えるとは思えないだろうとは思っていたが案の定か……。
まあ、いい、今回のここに来た目的はそれじゃない。
「その……夕霧の件なのですが、殿下へ直接会って伝言をしたいのです。どうにか引き合わせてもらえないでしょうか」
「いいわよ。その代わり私も仲間に入れて貰えるかしら?」
紫苑はいたずらをする子供のような幼い笑みを浮かべ、そっと立ち上がった。
※
その後、紫苑のお陰で水仙とも無事に会う事が出来た。
水仙は私が「勇者が直接殿下に会いたがっている」と伝えたら、二つ返事で待ち合わせ場所まで来ることを了承してくれた。
後は牡丹にも同じメッセージを伝えた。
牡丹に勇者の事を話したら、目を血走らせて笑っていた。鬼のお偉いさんにとって夕霧は本当に大事な鍵のようだ。
これで準備は完了だ。
私はその後、今日の分の仕事を片付け一旦部屋へと帰り、今日一日連れまわした渡を懐から取り出した。
「柚子葉殿、今日の行動は何なのでござるか?」
「今から説明するね」
私は彼に今後の予定を一通り話した。
話を聞き終わると渡は唖然とした様子で、しばらく無言で口を開けていた。
「何故そんな危険な事を……」
「彼等との結び付きを強くしたいの」
「博打すぎる」
「でも成功したらとびきりの情報に出会えるかもしれないの」
「情報……?」
「そう。仲間達と再会して、私がどうすべきか考える時が来たのよ」
私の話を渡はいまいち飲み込めていないようだった。
当たり前だ。私自身も迷っていて答えを出せていないのだから……。
そして、日が沈み、私は北の小屋へと向かう。




