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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
63/107

犯人は?

 場に重苦しい沈黙が流れた。

 その場にいる皆が思い思いにこの連続殺人について考えているようだ。

 皆がそれぞれ思考の海に沈んだ中、意外にも最初にそこから浮き上がり口を切ったのは真朱だった。


「ねぇ、柚子葉ちゃんがやったんじゃないの?」


 真朱の目が座っている。彼の憎々し気な視線で私を刺した。

 私は彼の言葉がすぐに理解できずに、何も言葉が出てこず、ただ狼狽えるしかなかった。


「そうだ、そうだよ。柚子葉ちゃんなら二人を殺せるよ。瑠璃ちゃんも鴇君も柚子葉ちゃんなら扉を開けて中へ迎え入れる」

「ちょ、ちょっと待って真朱君。私は今初めて会ったんだよ。皆の居場所すら知らなかったのにそんなこと出来るわけ……」

「それを証明することは出来るの?」

「それは、渡がずっと一緒にいたもの」

「そうでござる。柚子葉殿はずっと拙者と四竜殿に居た。柚子葉殿には不可能でござる」

「その人の証言はあてにならないよ。共犯で口裏を合わせておけばいいだけだもの。それに動機だってある。柚子葉ちゃんは僕達を恨んでいるんでしょ! 妖に食べられた柚子葉ちゃんを助けに行かなかったから」

「ち、違う。そんなこと思ってないよ。あれは私がヘタレだから襲われただけだし……」

「じゃあ何で柚子葉ちゃんは瑠璃ちゃんがあんな殺され方をしたのにずっと冷静だったの? おかしいよ仲間が殺されたのに」


 ダメだ。真朱の中では私が殺人者に成り下がっている。夕霧も何か思うことがあるのか黙って私達のやり取りを聞いていた。

 どうしたら彼に違うと理解してもらえるのだろうか。感情論ではダメだ。何か理論的な返しをしなければ。


「じゃあ、私にどうやって二人を殺すことができたというの? 私がただの掃除婦なのはよく知っているよね」

「さっき柚子葉ちゃん水を操っていたよね? そしてそれの圧力も変えられるようだった。そしてその水も自由に操れる」

「それが何?」

「それを使えば油断した二人を不意打ちで破裂死させることが出来るんじゃないの?」

「そんな……」


 私は一瞬で生命を奪う技を持っているため、そんな回りくどい殺し方をする必要は一切ない。

 しかし、そんな技を使える事を今の不安定な状態の真朱が知ったら、どんなパニックになるかわからないため打ち明けることは出来ない。

 四竜殿の鬼達なら私のアリバイを証明することができるが、鬼に狙われている転移者の真朱を引きあわせるわけにはいかない。

 普通に考えれば私が犯人だなんてあり得ないのに、今の真朱は疑心暗鬼でとても話を聞いてもらえる状態ではなかった。


「なら、私が真犯人を捕まえる」

「犯人は柚子葉ちゃんでしょう?」

「違う。けれど証拠がなければ私の主張は信じて貰えないのでしょう。なら私が真犯人を見つけて突き出すしかないよね」

「いいのではないですか? 柚子葉さんが犯人だと決まったわけではありませんし、ここは彼女に託して見ましょう。私達は私達で犯人を突き止めるために動きます」


 夕霧が間に入って、真朱を治めてくれた。

 真朱も夕霧に言われたせいか、渋々それを了承してくれる。

 その後、身の安全のため夕霧と真朱は宿を変える事に決まったが、その場所までは教えてくれなかった。

 ただし、桃次郎を通しての連絡には受けてくれるそうで、真犯人が見つかった場合、桃次郎が鬼ヶ島にいる間は彼を通じて連絡を聞き入れてくれるそうだ。桃次郎がここを離れる場合はまた方法を考えるということで決まった。


 久しぶりの仲間達との再会は血と疑心暗鬼に染まった、絶望的なものだった。


 ※


「柚子葉殿が仲間を殺すだなんてあり得ないでござる」


 渡は帰り道、私が疑われたことが憎らしかったのか始終その事を怒ってくれていた。


「仕方ないよ。私だけ彼等との絆が薄いから。みんなと離れたのもここに来てすぐのことだったし」

「そんなお人好しみたいな事を。真犯人探しでござったな、拙者も出来る限り手伝おう」

「ありがとう、渡」


 私は渡という仲間がいてくれるお陰で、精神の均衡を保っていられた。

 何だか嬉しくて私は肩に乗ったかれの体を軽く指先でツンツンとつついた。

 渡は何も言わず私に笑顔を向けてくれる。

 私は彼という存在の有難みを身に染みて感じていた。


 それから私達は部屋へ戻り、早速状況の整理を始めた。

 鴇も瑠璃も部屋の中心で、内側から何かが爆発したかのように殺された。鴇の時は首から上が辛うじて残っており、瑠璃の時は首だけではなく手足まで残っていたそうだ。

 部屋には内側から鍵が掛かっていたが、真朱、夕霧は合鍵を持っていたし、瑠璃が中へ招き入れれば第三者でも容易に中へ進入することは可能だろう。


 感情は抜きにして真朱か夕霧のどちらかが犯人でないと犯行は不可能。けれど、感情を含めると彼等のどちらも犯人であるとは思えない。


「ねぇ、渡。職業:勇者ってどんな力を持っているの?」

「勇者でござるか? いきなりどうしたのでござるか?」

「解決のために必要な知識なの、教えて」

「さようでござるか……勇者は武術、魔術、喩術すべてに長けてると聞く。努力さえ惜しまなければ全てを極めることが出来るらしいでござるよ……実物に会ったことがないからそれが本当かどうかはわからないでござるがね」

「本当にすごい存在なんだね」

「事実ならそうでござるなぁ、それがどうかしたか?」

「あのね、夕霧ってさっき居たでしょう。髪が長い方の男の人」

「その男がどうかしたか?」

「彼が多分勇者なのよ」

「はあ?」


 渡は疑いの目を私へ向けた。

 確かに夕霧の出で立ちは余りにも勇者らしくなく、見た目ただの文官にしか見えないし、現に私もそう思っていた。渡が疑う気持ちもわかる。

 しかし、私には彼が勇者だという確証があった。


「一緒に旅をしていたけれど姿も声も違っていたから全然わからなかったけど間違いない。夕霧は元の世界での私の数少ない知り合いよ」

「数少ない?」

「そこは触れないで、悲しくなるから」


 渡による悪意のない攻撃が私の心を抉る。そこはあまり突っ込まないで欲しかった。


「……杜若空……同じ学校に通う瑠璃ちゃんの実の兄で私の一個上の先輩が夕霧の正体よ」





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