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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
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鬼ヶ島:後編

 瑠璃が桃次郎の方に詰め寄る。桃次郎は少し顔を赤くし、照れたような仕草をした。


「その、柚子葉って子に会いたいのです。お知り合いなのですか?」

「知り合いというか、想いを誓い合った相手というか……」

「想いを誓い合った?」

「瑠璃さん、そんな心配そうにしないでください。僕は貴方のことも大事にしますから」

「えっと、柚子葉ちゃんとは恋人同士なのですか?」


 瑠璃は桃次郎の反応は無視して話を続けた。この短い時間で瑠璃は桃次郎の扱いに早くも慣れ始めていた。


「恋人同士……になるのですかね? 先程、四竜殿の門の前で馬鹿な門番と揉めている時に柚子葉さんから声をかけていただいて、それからお茶をしたのです。それで、今晩この宿へ来る予定でして」

「本当ですか!? あの御一緒させてもらったらダメですか?」


 瑠璃は上目遣いで桃次郎を見た。瑠璃による己の武器を理解した攻撃は桃次郎によく効いたようだ。

 

「どうぞ! 是非今晩はお泊りください」

「ありがとうございます桃次郎さん! みんな泊まっていいって」

「えっ、みんな……?」


 てっきり、瑠璃だけなのかと思っていた桃次郎は、目を丸くして、瑠璃の言葉の意味を飲み込むのに苦労していた。

 そんな桃次郎に瑠璃は先制攻撃を仕掛ける。


「桃次郎さんは懐が深い方ですね。私達、桃次郎さんのような人格者に出会えて本当に嬉しいです」

「そ、そうですか?」


 ベタ褒めされ、桃次郎も気分が良くなったのか、今晩全員でこの宿で張ることを許可してもらえた。


 真朱が小声で「瑠璃ちゃんさすがだねぇ」と感心したように言うと、瑠璃は小さく舌を出してウィンクしてみせ、真朱はそれに苦笑いで返した。


 ※


「柚子葉ちゃん、来ないね」


 それから深夜、日付が変わる時間になっても柚子葉は現れなかった。

 瑠璃はふてくされたようにゴロゴロと寝転がり、寝不足の真朱はうつらうつらと夢と現を行き来していた。夕霧と桃次郎は目ははっきりと覚めていたが、待ちくたびれて退屈そうに壁に寄りかかっていた。


「もしかして本当に用事があったのかな……」


 桃次郎が独り言のように呟いた。その言葉に何か嫌な予感がした夕霧が桃次郎の独り言を掘り下げた。


「桃次郎さん。柚子葉さんとは昼間どのような約束をしたのでしょうか?」

「どうのようなって……」


 夕霧の問いに桃次郎は顎に手をあて、日中柚子葉に出会ったときのことをぽつぽつと語り出した。


「僕と柚子葉さんは意気投合して、今晩宿へ来てくれないかと誘ったのですよ。そうしたら、柚子葉さんが今晩は用事があるから行けないと言ったのです。僕はてっきり照れ隠しなのだと思ったのですが……」


(それ、完全に断られてる……!!!)


 その場にいた三人が一様に心の中でツッコミを入れた。

 夕霧はしてやられたと言わんばかりに、片手で顔を覆って首を大きく振った。

 瑠璃と真朱も同様に力が抜けて、落ち込んでいた。


「桃次郎さん、柚子葉ちゃん来ないと思うので別の方法を探しましょう」


 瑠璃が桃次郎にはっきりと現状を伝える。しかし、彼にはまだ利用価値があるため機嫌を損ねないように言葉を選びながら。


「柚子葉ちゃんはそういう嘘を吐かない子なのです。桃次郎さんに会いたくて仕方がなかったと思うのですが、今晩は本当に外せない用事があったのだと思いますよ」

「そうだったのですか……」


 桃次郎は瑠璃の胡散臭い言葉を一つも疑いもせず真剣に聞いていた。


「ですから、また別の日に柚子葉ちゃんを誘うのがいいと思うのです。どうにか方法がないでしょうか?」

「そうですねぇ……手紙なんてどうでしょう」

「手紙?」

「はい。さすがに中へ入るのは僕でも難しいですが、手紙を出すことくらいは出来ます。中身は検閲されますが恋文なら特に何か言われることはないでしょう」

「それよ!」


 その日はそれで解散し、桃次郎といても息苦しいため夕霧達は自分達の宿へ帰った。


 次の日、桃次郎から渡してくれるというので、三人は部屋で柚子葉へ渡す文の内容を考えていた。

 中身を第三者が確認するのであれば、下手な事は書けない。それに、柚子葉がどのような立場でどの程度のことを四竜殿の者達に打ち明けているのかもわからない。

 柚子葉の立場を悪くしないためにも、自分達の存在を直接書くわけにはいかなかった。

 名前は桃次郎のものを使い出し、柚子葉は桃次郎の鬼ヶ島での居場所も知っている。

 ならば自分達の居場所は明かさず、存在だけ主張すればいい。そうすれば桃次郎伝いで自分達の居場所もわかるはずだ。

 そして、三人は翌日何時間もかけて完成した文を桃次郎に渡した。


 ※


 柚子葉が来なかった夜、瑠璃も自分の宿へ帰ってしまい、一人で寂しい思い桃次郎が諦めて眠ろうとした時のこと。

 桃次郎の背後で何者かの気配がした。

 咄嗟に距離を取り、桃次郎は壁際に背を向け常に手元に用意している短刀を抜いた。


「隊長に刃を向けるとは失礼な奴でござるなぁ……」

「その声は……鳥塚!?」


 桃次郎の目の前に、己の所属する近衛隊の上司が現れた。


「何故、お前がここにいる」

「それはこっちの台詞でござる。いつもいつも邪魔ばかり……いや、それはいい。用件だけ伝えに来た」

「何だよ」


 桃次郎は胡座をかいて腕を組み、いけ好かない上司の言葉を“聞いてやる”という態度で待った。

 それを見て渡は一瞬眉をひそめるが、慣れているのか諦めているのか、部下の無礼な態度も注意せずにそのまま話を続けた。


「お前が鬼ヶ島で遊ぶのは構わないが、柚子葉殿には近付くな」

「男女の仲を引き裂くだなんて無粋だな」


 渡は小さく舌打ちをした。会話の噛み合わなさにイラ立ちを覚えているのだろう。


「違う。輝夜姫の命令でござる」

「姫様の……?」

「そうでござる。拙者の任務の邪魔になるから柚子葉殿に関わるのは控えて欲しい」

「姫様の命なら仕方ないが……、手紙だけは送らせて貰えないか?」

「手紙も駄目でござる」

「そんな、約束してしまったのに」

「約束……?」


 桃次郎は少し自慢気に胸を反らし、瑠璃という美人に頼られていることをペラペラと喋り出した。

 渡は全神経を集中させながら話に耳を傾けた。桃次郎の話は彼の主観では事実と異なる事が多いため、その中から真実を見つけ繋ぎ合わせる作業が必要になるのだ。

 それは渡が桃次郎と出会って数年掛けて身に付いた欲しくもない技の一つでもあった。


 おおよそ理解した渡は、桃次郎に手紙の件は許可を出して外へ出た。

 そして式を使い輝夜姫へ事の次第を報告した。後は輝夜からの指示を待つだけだ。

 一通りの作業を終え、渡は眠る柚子葉の元へ戻った。



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