表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界へ
6/107

双子の姫

 門の中の敷地に一歩踏み入れるとそこには広い庭園と寝殿造りのような大きな木造の屋敷が建っていた。


 庭には松の木が生え、緑色の池に赤い橋が架かっている。

 和風感満載の景色に思わず某鉄道会社のCMが、頭の中に思い浮かんでしまった。

 それは私だけではなかったようで「そうだ、異世界へ行こう……」と、真朱が突然呟いて、私達三人は思わず噴出してしまった。

 真朱は大人しい控えめキャラかと思っていたけど、こんな冗談も言えるのか。

 夕霧が不思議そうな顔して私達を見ている。

 いけない、いけない、ここにいるのは私達だけではないのだ。


「綺麗な庭ですね」


 瑠璃が空気を変えるように、庭園を褒めた。


「ありがとうございます。私どもの主、自慢の庭です」


 夕霧の表情が少し柔らかくなる。

 主のことを考えたのだろうか。きっと主のことがとても大切なのだろう。

 どんな人か緊張していたけれど、この分だと悪い人ではなさそうだ。


「クッ、異世界へ行こう……ククッ」


 鴇がツボって未だに笑っている。

 鴇のことは一先ず置いておいて、私達は庭園の話に花を咲かせた。

 まあ、私は適当に愛想笑いだけして話題には貢献していなかったのだけれど。私は人数が増えると会話に入れなくなってしまうのだ。


 そうこうしているうちに、お屋敷へつき、中へ入れてもらい、これまた長い廊下を歩いて奥へ奥へと進んで行った。

 廊下ですれ違う人々はみな一様に夕霧へ頭を下げていた。

 どうやら夕霧は、ここの中ではかなり身分の高い人らしい。

 身分の高い人がわざわざ出迎えてくれたのか。なんだか申し訳ないな。

 廊下の奥にある、一際大きな部屋で夕霧は足を止めた。

 部屋の入り口には御簾がたれている。このお屋敷は襖ではなく御簾で各部屋仕切っているようだ。


「失礼いたします」


 夕霧が御簾を上げ、私達を中へ招き入れる。

 大きな部屋の中に入ると、一段高い場所に座したそっくりな顔をした、二人の美しい少女の姿が目に飛び込んできた。


 美少女だ!!! しかも、双子!!!!


 私のテンションは一気に上がる。

 私は昔から美少女が大好きなオタクだった。

 小さい頃から女の子が活躍するアニメが大好きで、周りのみんながダサいとかいって見なくなっても私は毎朝欠かさず、魔法少女アニメに見入っていた。

 未だに朝は早起き、学校は速やかに帰り朝・夕の女児向けのアニメは欠かさず視聴している。

 小学校高学年になり夜更かしするようになったら、大きいお兄さん向けの美少女達が主人公のアニメも見るようになった。今は艦隊擬人化ゲーと可愛いアイドルが踊る音ゲーにもハマっいる。

 現実のアイドルも男性アイドルには興味なく、女性アイドルばかり追いかけていて、アイドルソングは殆ど歌詞を見ずに歌えたりする。

 ともかく、可愛い女の子が大好きな私は、若干興奮気味で鼻息が荒くなった。まるで変態だ。


 双子の少女二人は、黒く長い髪をツインテールにして垂れ流し、向かって右の子は真っ赤な着物、左の子は真っ青な着物を身に付けており、二人共それを肩を丸出しにして気崩していた。切れ長の瞳が歳より大人びた妖艶な雰囲気を醸し出し、お姫様というよりは花魁のようであった。

 二人のお姫様は一人が足を崩して座っており、もう一人が持たれかかるようにして密着している。

 百合か!百合なのか!!

 男同士も男女のカプも興味ない百合大好きな私は美味しすぎて涎まで垂れてきそうだ。

 そんな興奮気味の私の様子をみて鴇が心配し声を掛けてくれた。


「唐金大丈夫か? 息荒いぞ」

「大丈夫じゃないです、大丈夫です、美味しいです」

「お……おう」


 鴇は、私の様子に只ならぬものを感じ取ったのか若干引いている。

 ごめんよ、すぐ冷静になるから今しばらく放っておいてくれ。


「姫様、まったくだらしない。客人が来ているのだからもう少しちゃんとしてください」

「はいはい、夕霧は相変わらずうるさいのう」

「そうじゃそうじゃ、若いのに皺が増えるぞい」

「余計なお世話です! ああ……すみません、どうぞ中へ」


 後半は私達へ向かって言った。

 お小言を言っていた様子から夕霧は姫様達の教育係のような存在なのだろうか、お姫様の教育を男がするのか、日本では考えられないな。

 私達は案内されるがままに、お姫様達の前に置かれた座布団へ各々座った。

 夕霧は私達に向かい合わせるようにお姫様達の左前へ座った。


「姫様、挨拶を」

「言われんでもするわ、姉の紅睦月(ベニムツキ)じゃ」

「妹の藍如月(アイキサラギ)じゃ」


 よく見ると姉の紅睦月は赤い瞳、藍如月は青い瞳をしている。

 顔はそっくりだが、瞳の色で違いがわかりやすい。

 これなら双子あるあるの、馴れないとどっちがどっちかわからなくなる、がなさそうである。

 その代わり、私達を正しく見分けたのは貴方だけイベントも無理だけど。


「異世界から迷い込んだ勇者一行よくぞ参った、(ベニ)は異世界人に会えてとても感激じゃ」

「えっと、やっぱりここって異世界なんすか……?」


 鴇がぎこちなく訪ねた。口を挟んでいいか少し迷ったのだろう。


「お主達にとっては異世界じゃろうな」

「そ、そうっすか……」

「ところで旅人達よ、主らはここに来るまでの間に(アヤカシ)には会ったかえ?」

「あや…かし?」


 みんなの目が点になる。妖怪になんてあったっけ?あ…もしかして


「スライムのことですか?」

「すらいむ?」


 失敗したスライムは通じなかったか。


「えーっとこういう液体が固まったような、火に弱いやつで……」

「それが、妖じゃ。そいつは粘玉(ネバリダマ)という、弱いのだが数が多いのが厄介なのじゃ」


 藍如月は、うんざりという様子で首を振った。その仕草も可愛い萌える。

 紅睦月と藍如月は息ピッタリに交互に話を続けた。


「その妖は、日夜人を襲い藍達はとても苦労しておるのじゃ」

「普段は山の奥や森の深いところにしか生息していないのだが、最近は人里まで強力な妖が現れ日常生活に問題が出てくるようになってのう、それもこれもあの鬼のせい」

鬼王(キオウ)雪羅(セツラ)、憎き鬼達の頂点に立つ者がどういうわけか妖を操る能力を持っておってのう、我ら人間は多大な害を被っておる」

「そもそも、我ら“人間”と“鬼”はそれぞれの領地や資源を巡って長く争い合っておるのじゃ、しかし、拮抗していた力が、新しく鬼の頭についた雪羅の、妖を操る力によって人間がとても不利になった」

「このままでは我ら人族が鬼に負け、鬼共に支配されるのも時間の問題」

「じゃが、人族には伝説があった、“人族危機に陥りし時“日本”から勇者達が現れ、勝利をもたらすだろう”と」


 それが、私達だと言うのか。

 本当にゲームみたいな展開だ。オラ、ワクワクしてきたぞ。


「あの、それで、私達はその鬼を退治すれば帰れるのですが?」


 瑠璃が不安そうに尋ねた。確かに、それは重要なポイントだ。ここに永住ってなるとオタクライフを楽しめないしね。私も最後には元の世界へ帰りたい。


「伝説では、元の世界に帰ったと聞いておるが、どうだかのう? まあ、もし帰れなかったとしても鬼王を倒した英雄として人族が主らの生活は保障しよう」


 それは、すなわち、鬼王を倒せなかったら私達は保護すらしてもらえないということだ。

 元々私はそうするつもりだったが、私達には鬼王を倒す以外の選択肢はなさそうである。


「どうじゃ? 鬼退治を引き受けてくれるか?」


 私達四人は、探るようにお互いを見合わせた。


「お、俺は、鬼退治行ってもいいけど……」

「ぼ、僕も、行くしかないのかなって思うし行きます」

「私も、行きます。瑠璃はどうする?」

「わ……私は……」


 瑠璃は、不安そうに考え込んでしまった。

 今から戦いに身を投じろといわれているのだ、普通の女の子なら悩むのも当たり前である。


「姫様、この者達にも少し考える時間を与えてあげてはいかがですか?」

「いえ、大丈夫です。私も引き受けます」


 夕霧さんの提案をはね除け、瑠璃は決意した。

 それ以外の選択がないのはわかっていたのだろう。

 瑠璃は賢い子だ。


「よし、では決まりじゃ」

「主らに旅の支度をしよう。今日のところは屋敷で休め、部屋の用意はする」

「もし、なにか用があったら夕霧を呼べ、疲れたであろう詳しい話しは明日じゃ」


 私達はお礼を言って、部屋を後にした。

 夕霧に連れて行かれ部屋に通される。男女でそれぞれ一部屋づつだ。

 その部屋で私達はここに来てからやっと一息つくことが出来たのだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ