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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
47/107

金雀枝ルート(嘘)

 金雀枝から毎日届く恋文をシカトし続けて二週間経つが、特に何事もなく日常は過ぎていった。

 赤竜殿の掃除チームは日々評判が上がり、各お屋敷に出張することもあるため、仕事が忙しく私は金雀枝のことまで考えている余裕もなくなっていた。


 多忙のため屋敷に閉じこもりっぱなしだった私は、週末のお休みを利用して町へ買い物へ繰り出すことにした。私は身支度を済ませ、渡を着物の腰袋へ忍ばせる。

 他のお屋敷に出張したときにお礼として支給された布を持ち、まずは町の問屋へ行った。

 布から服を縫う技術もないため、そこで布を売って資金を得る。得た資金を使い、町を見て回った。

 この世界での生活の常識は色々渡に教えてもらった。

 私は紫苑に初めて会ったあの日、渡に自分が異世界から来たということを話したのだった。

 夢物語のような話だが、この世界では異世界からの勇者というのは比較的信じられているようで、特に疑われることも笑われることもなく、受け入れてもらえた。

 一人だけ掃除婦という日常職だったと愚痴を言ったら、渡は「柚子葉殿らしいでござるな」と、笑って、それから私の頭を軽く撫でてくれた。あまりの恥ずかしさに顔を伏せてしまい、渡の表情が見なかったことが、今思うと残念でならない。

 それから渡は、無知な私に買い物の仕方から一般常識まで、色々と教えてくれたのだ。


「渡はどこか行きたいところはある?」

「そうでござるなぁ、必要なものは足りているし拙者は特にないでござるよ」

「そっか、じゃあ私は服を買いに行こうと思っているのだけどいい?」

「問題ないでござるよ」


 私は町で、手頃で動きやすい服を探していた。

 動きやすさ重視だが、女の子らしい可愛さも兼ね備えているものが欲しい。

 あっちの服屋にあった、ピンクの詰襟で裾がひらひらとした服は可愛いけれど、とっても動きづらそうだし、こっちの服屋の服はシャツとズボンのように着られるシンプルで動きやすい服だが、華やかさが一切ない。

 私は中々運命を感じる服には出会えないでいた。

 悩みながら町を歩いていると、町人の男が私の前を立ち塞いだ。


「お嬢さん、何かお探しかな? よければお手伝いしますよ」

「お金がないので結構です」


 この手の客引きはこの町ではよくある光景だ。目すら合わさぬように、横を通り過ぎる。しかし、しつこい町人の男は、再度私の前へ出て、行く手を塞いできた。

 この世界の警察のような組織――検非違使を大声で呼ぼうかと思ったとき、その町人が既知の人物だと知る。


「無視するな。端た女のくせに生意気だぞ」


 そこには何故か町人風の麻の着物に身を包んだ、金雀枝がいた。


「内府……?」

「おい! 役職で呼ぶな! これでもお忍びで来ているのだ」


 金雀枝が周りを確認するように首を左右に振りながら、右手で己の口元に人差し指を立て、左手で私の口を塞いだ。


「申し訳ございません」

「名前で呼んでくれ」

「本名で読んだらそれはそれで不味いのでは?」

「いいよ、金雀枝で。取り立てて珍しい名前でもない」

「金雀枝様?」

「様はやめろ」

「金雀枝さん」

「それでいい」


 私は、お忍びで町へ下りたこの男と出会ってしまった己の不運を呪う。これなら悪質な客引だった方が何百倍もマシだ。

 腰袋に忍ばせた渡がさっきから私をガシガシと殴っている。さっさと逃げろということなのだろう。

 私も渡と二人でのお出掛けを邪魔されたくないため、くるりと踵を返した。


「それじゃあ金雀枝さん、またいつか」

「おい、待て逃げるな」


 金雀枝は再度私の進行方向を遮ってくる。

 意外な素早さに驚く。弱そうな印象を抱いていたが、やはり牡丹の弟だけあり、それなりに動くことが出来るのだろう。


「少し付き合え、好きなもの買ってやるぞ」


 内府は少々強引に私の手を握り引っ張ってきた。

 突然の引力に少し体が前のめりになってしまった。

 相手が雇い主の兄弟でなければ、もっと強く抵抗するのだけれど。

 金雀枝には牡丹の恋人ではないと話してしまおうか。そうすれば、私への興味も醒めるだろう。

 口が軽そうな男だから余り打ち明けたくはなかったけれど、ここまで付き纏われるのであれば致し方ない。

 “牡丹と別れるから外へ出ろ”と、引きこもりの三男との交渉材料に使っていたため、あまり広まっては欲しくなかったけれども、その時はその時だ。


 ※


「あーはいはい。そういう、嘘はいいから」


 私は金雀枝に喫茶店で茶をご馳走してもらっていた。

 この国のお茶は基本香りがついており、今飲んでいるものは蘭の香りがするものだ。

 高貴な香りに居心地の悪さを感じながら、私は金雀枝に、私と牡丹が恋人というのは嘘だと説明した。内容は前に紫苑に話したものと大体同じだ。

 特に理論的には破綻していないはずだけれど、金雀枝には全く信じてもらえなかった。


「嘘ではないです。逆に私のような粗野な女が恋人だと思いますか?」

「さあね、牡丹は面食いだからあり得るんじゃない? あんた顔だけはいいし」


 相変わらず実際に会うと嫌味な男だな。送られた和歌では腰が低くかったのに。


「俺の存在が面倒だから、牡丹とは無関係装っているようにしか見えないけれど。違うの?」


 私は言葉に詰まった。確かに金雀枝の存在が面倒だから話しておこうと思ったのは事実だけれど、牡丹の恋人でないのもまた事実だし。


「た……牡丹さんに付き合っている振りをしろと言われたからずっと隠し通していたけれど、こんなに気にかけてくださる金雀枝さんを騙すのも忍びなくなってしまい……」

「胡散臭い演技するなよ。わざとらしいぞ」

「そんな演技だなんて」


 バレバレだったようだ。演技力には定評がまったくない私なので仕方がない。

 金雀枝は飽きれた顔で小さく溜息をつき、目線を横へ逸らした。


「あの……金雀枝さん、お返事書かなくて申訳ございませんでした。私、和歌の教養がなくて……」


 何とか話題を変えたくて手紙の件を謝罪したら、金雀枝は視線を再度私へ戻し、気怠そうに頬杖をついた。


「気にするな、母様にお前にちょっかい掛けた事がバレて書かされただけだ。花梨が面白おかしくチクったんだろう。女を口説くとは~って一時間位説教されたよ」


 花梨先輩容赦ないな。

 金雀枝も母親には頭が上がらないのだろうか、その時の光景を思い出したのか、苦々し気に顔を歪めた。

 黄竜殿の主に息子の悪業をチクるなんて、花梨の交友関係の広さもさすがである。


「北……花梨さんとお母さまは仲が良いのですか?」

「そりゃあ従姉妹だからな。馴染み深いのだろう」

「へー、そうだったのですか、知らなかったです」

「花梨は子供の頃から俺が何かする度に母様に言いつける生意気な女だった」

「もしかして、幼馴染のような存在だったのですか?」

「ああ、俺と花梨は歳が近かったし、母様を訪ねてきた花梨とよく遊ばされていたな」


 金雀枝は過去を懐かしむように、軽く目を閉じた。悪い思い出ではないのだろう、表情が少し綻ぶ。


「牡丹の婚約者に決まった時から花梨も多忙になって会う事もなくなったけどな」

「婚約者……?」


 花梨と牡丹が婚約者だって……? 私は目を白黒させた。


「知らなかったのか? 花梨は牡丹の婚約者だったんだ。百合に夢中になった牡丹が破棄したけどな」


 牡丹最低。でも真面目なところがあるから、本人なりに考えてのことなのだろうけれど。

 花梨と牡丹にそんな過去があったなんて知らなかったな。花梨も知られたくはないだろうし、べらべらと話すわけがないか。


「花梨はそれでも牡丹の傍にいたいと赤竜殿の女官になったのだ。全く理解出来ない」


 金雀枝は今度はまたムカムカとした様子で腕を組んだ。感情が表に出て可愛らしいと少し思ってしまう。


「何笑ってるんだよ?」

「笑ってないです」


 いけない、いけない。表情が緩んでしまったようだ。


「あの長男は本当にどうしようもない男だよ。長男の自覚がなく、結婚もせずフラフラとしているし、一時期は剣の修行をするといって勝手に何度も屋敷を抜け出して其処彼処で妖や荒くれと戦っていたしな……」


 牡丹は奔放な行動で周囲に色々と迷惑掛けていたようだ。その後も牡丹への愚痴は続く。


「しかもあり得ないだろ、百合だぞ? よりによって父親の妻に手を出すか? もっと他に相手がいるだろう」

「そうですねー」

「百合に一筋かと思ったら、お前を囲っているというし……」

「ですからそれは嘘だと……」

「またそれか。あの牡丹が知らぬ女を、同情だけで屋敷に招いて住まわせるなんてある訳ないだろう」

「そうですか? とてもいい人ですよ」


 修行の相手や手紙配達にこき使うが、基本親切だし、人間である私を気遣ってくれたことも沢山ある。

 いつか恩返しがしたいと思う人リストのナンバーワンでもあるのだ。


「お前に親切なのは、美人だから気に入ったのだろ」

「それはないです」


 多分牡丹が私に興味を持ったのだとしたら、それは私の戦法だろう。彼は修行の相手が出来たことに少なからず喜んでいたようだし。

 牡丹は文官だけれど本当は前に出て戦いたいのだろうな。


「私は掃除の腕は確かですから、それを買っていただいたのでしょう」

「ふーん」


 金雀枝は疑いの目を向けながらも、反論はして来なかった。信じてもらえたのだろうか……?


「そろそろ出るか、服見たいんだろ?」

「え、何で知っているのですか?」

「服屋から出てきただろ」

「えっ、そこから見ていたのですか?」

「偶然だよ。偶然。たまたま視界に入ったの」

「はぁ……」


 良かった。ストーキングされていたわけではないようだ。まあ、金雀枝もそんな暇じゃないか。


「金雀枝さんは何で町に」

「別に意味もなくフラついていただけだよ、暇が出来るとたまにするんだよ」


 金雀枝は席から立ち上がり、私へ手を差し出した。拒否するのも悪いので私は手を取り席から立ち上がると、彼にそのまま手を握られ、店から連れ出された。

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