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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
43/107

説教

「えーっと、渡もしかして怒ってる?」


 渡は静かに怒りのオーラを放っているが、原因が全く思い付かない。初めて見る渡の怒りの表情に私は完全に萎縮してしまっていた。


「柚子葉殿」

「は、はい」

「こっちへ来て、座るでござる」

「はい」


 渡の前に正座させられる私。落ち着かなくて、無意識に指と指を絡めてしまう。

 私はおずおずと渡を上目遣いで見上げた。


「渡? どうしたの……?」

「今日のことでござる」

「今日?」


 渡を置いていったことかな、でもそれは本人にも説明して納得してもらっているし……。


「柚子葉殿は金雀枝に何故黙って連れ去られようとしていたのでござるか、柚子葉殿なら簡単に逃げることが出来たでござろう」

「あー……、あの場面を渡は見ていたんだね」


 金雀枝に抱きかかえられた時のことか、まさかあの場を渡が見ていたとは……。


「たまたま通り掛ったのでござる」

「ごめんね、一応内府だし持ち上げられた状態で暴れて怪我でもさせたら悪いと思って、降ろして貰った段階で逃げようかなーって」

「何のんびりとしたことを言っているのでござるか!!」

「ひぇっ!」


 渡の怒りが頂点に達して、すごい剣幕で怒鳴られてしまった。人通りのないところとはいえ外に声は漏れていないか心配でならない。渡もそれに気が付いたのかすぐに我に返り、小さく咳払いをして、再度小声での説教に戻った。


「柚子葉殿は金雀枝のことを知らぬのでござるか? あの男は好色漢で色情魔で歩く性欲でござる。柚子葉殿のようなお人好しはあの男の屋敷に踏み込んだ時点で、焚かれた媚薬に狂わされて金雀枝の良いようにされるのがオチでござる」

「渡は内府のこと詳しいんだね、知り合い?」

「ゆ、有名な話でござる」


 金雀枝の色狂いは有名な話なのか。噂だろうから尾ひれはひれ付いている可能性はあるけれど、あの強引な様子を見ると噂の真実味は高そうだ。

 媚薬の効果が如何なものかは知らないけれど、確かに私は己の強さを過信し過ぎて危機感が薄れていたかもしれない。これは渡の言う通り反省点が多そうだ。


「まったく、拙者が助けなかったらどうなっていたことか……」


 うん? 助けてくれた……?

 あっそうか、あれは渡がやってくれたのか。


「もしかして内府の足刺したの渡?」

「気が付いてなかったのでござるか?」

「ごめん、そこまで頭が回らなかった」

「別に構わないでござるよ」


 だから内府の足に刺さった得物が見つからなかったのか。

 そうか渡が助けてくれたお蔭で今無事に私がここにいるのか。


「渡、ありがとう」


 自然とお礼の言葉が口から出ていた。

 渡は隠し事も多いし、その割に人のことを探るような事も多く信用してはいけないと思っていたけれど、私の危機に本気で怒って、しかも助けてくれたということは人並みの信頼関係は築けていると考えていいのだよね。

 これから、私は渡を疑わないと心に決めた。


「もう、金雀枝には絶対に近寄ってはならぬでござるよ」

「うん、約束する」


 今後は金雀枝を見たら逃げるということで私は渡に納得してもらい、許してもらうことができた。


「あのね、渡」

「なんでござるか?」

「後でゆっくり話したいことがあるの」

「承知した、今でも構わないでござるよ」

「今から用事があるし、夜二人きりの時間が取れる時がいいの」

「用事?」

「うん、牡丹の部屋にこれを届けないとね」

「牡丹の部屋?」


 私は渡に牡丹から預かっていた刀を見せた。

 ワックスを剥離剤で綺麗に剥がして、元通りに復元させたものだ。

 渡は興味深げに刀をじっくりと眺め、小さく舌打ちをした。


「あの下手くそより、拙者が持っていた方が絶対に使いこなせるござるよ」


 刀のことはよくわからないけれど、どうやら渡が嫉妬する程良い物らしい。元に戻せて良かったと心底安心した。

 渡をそのまま部屋へ置いていこうと思ったが、渡がついていくとしつこいため、私は渡をポケットに入れ、牡丹の部屋へ向かった。昨日、借りていた手形を返しに行った時に牡丹の部屋までの道順を覚えたため、特に迷うことなく右へ左へ複雑な廊下を進んでいく。


「昨日も牡丹の部屋へ行ったのでござるか!?」

「うん、部屋に帰る前に返すものがあってね」


 渡は何をそんなに驚いているのだろうか……?

 人通りがあるためこれ以上会話を続けることが出来ず、その疑問は胸へ仕舞うこととなった。

 牡丹の部屋へ辿り着き、戸をノックする。

 手形を返した時に、刀を今日返す約束をしたから、牡丹は部屋にいるはずだ。

 すると少し間が空いてから、戸の中から焦った様子の牡丹が出てきた。


「柚子葉か。刀はそこに置いておけ、それじゃあ」


 牡丹が即座に戸を閉めようとしたところ、それを阻止する誰かの手が出てきた。


「そこにいるのは柚子葉さん?」


 淑やかな声がし、ゆっくりと牡丹によって閉められようとしていた戸が開いていく。

 絹糸のように光り輝く長い薄紫の髪をした、背の高い三十代くらいの美しい女性が紫の目を細めこちらを見下ろしていた。


「は、初めまして……」


 映画女優のような圧倒的な美しさに気圧されて、何故牡丹の部屋にいるのか、何故私の名前を知っているのか等聞きたいことが沢山あるはずなのに、上手く言葉が出て来ない。


「母上、彼女のことはもういいでしょう。柚子葉、今日はこの通り取り込み中だ、さっさと帰れ」


 後半は私に向けて牡丹は投げ掛けた。母上……、この人が牡丹のお母さんなのか、あまり似ていないな。


「柚子葉さん、そう言わず少しお話ししましょう」

「え……、いや、その……」

「いいでしょう、少しくらいは」


 私は半ば強引に、牡丹のお母さんに部屋へ連れ込まれた。牡丹はそれを必死に阻止しようとしていたが、牡丹母に一睨みされ、あえなく撃沈していた。

 あの牡丹を一撃必殺とは母は強しだね。


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