手合わせ
掃除人控え室の前で、約束通り牡丹は待っていた。
「ここで何か御用でしょうか?」
「今から俺と戦ってもらう、ここで何かお前の武器になるようなものがあれば取って来い」
「えぇーー……、また、戦うのですか?」
「本気とは言っていない、手合わせに付き合え」
「は、はぁ」
何故掃除婦の私と手合わせ。
強いと認めて貰えているのだろうけれど、私の戦い方は我流過ぎて何の参考にもならなそうだけれどいいのかな。
私は嫌々ながらも掃除用具を取りに、控え室の中へ入った。一通り見渡し、掃除用具の中でも比較的戦闘に使いやすそうな箒を手に取る。
箒を持ち、牡丹の元へ戻ると、牡丹は箒を一瞬だけ見て、“箒か……”と呟き、すぐに視線を次の行き先へ移した。牡丹の後をついて屋敷の外に出て、町を避け進み、私達は島外れの空き地についた。
「ここだ。戦いやすいだろう」
「そう……ですね」
確かにここは落ち葉こそ落ちているが、それ以外は何の障害もない空き地だし、人が来る気配もない。戦うにはもってこいの場所だ。
牡丹が木刀を構え、切先をこちらに向けてきた。
「始めるぞ、位置につけ」
「はい……」
木刀を見て、ふとワックス固めにした刀の存在を思い出した。
「そういえば、あの私がダメにした刀どうしましょう? 私が触れていいのであれば元通りにさせて頂きたいのですが……」
「そうだな、後でお前の部屋に届けよう、もし元通りにならなかったら給金から天引きする」
給料から天引き……、高価なものといっていたけれど、どれくらいなのかな。一生返せない借金を背負って生きて行かなければならないとかなったら、それは嫌だ。
「が、頑張ります」
「冗談だ。そう固くなるな、あの時は命懸けだったのだから仕方ない」
「あ、ありがとうございます!」
雇ってもらったことといい、本当に牡丹はとても良い人だ。
鬼の頭の首を取れと言われて来たけれど、鬼族は良い人多くて、もしかして話し合いでなんとかなる気がしてきた。
雪羅って鬼の王様に妖放つの止めてくださいとか言って、止めてもらってお互い仲直りとか無理なのかな。
そしたらとてもハッピーエンドなのだけど。それはノーテンキ過ぎか……。
今から牡丹と模擬戦だし、この事は今度考えよう。
私は牡丹となるべく距離を開けた。
牡丹は一瞬で間合いを詰めてくるため、なるべく距離は離したい。
位置についた私を牡丹が鋭い目で私を見る。本気で殺されそうで背筋がひんやりとした。
焦る心を抑えながら、私は牡丹の足元に目線を下げた。
彼の踵が地から浮いたタイミングで、能力で徐々に集めておいた広場の落ち葉を箒を使い、私を包み込むように高く舞い散らした。
舞い散る落ち葉が私の姿を隠す。
その一瞬後に、遠心力のかけられた木刀が、宙に舞う葉を美しく真っ二つに切り裂いた。牡丹が踏み込んでからそれはたった二秒の間の出来事。
この距離を一瞬で詰めてくるのだから、恐ろしい機動力だ。感心するが、私も負けていられない。
私は木刀を振ったせいで大きく開いた牡丹の脇の下に顔を出す。
持っていた箒で牡丹の身体を思い切り突こうとするが、反応した牡丹に避けらた。
心の中で“外した”そう思った時には、木刀の刃が私の首を捉えていた。
「一本だな」
「参りました」
私は、片手を上げ降参の意を示す。
見上げると、満足気に微笑む牡丹の顔が見えた。
「これからたまに、こうして俺の相手をしろ、お前と戦うのは勉強になる」
「太師の地位にいる人が、これ以上剣の腕を磨く必要あるのですか?」
「個人的に決闘で勝ちたい相手がいてな」
「そうなのですか……」
牡丹は案外負けず嫌いなのかな。
正直夜に呼び出されての手合わせはとても面倒だが、置いてもらっている立場では受け入れる他ない。
早くその牡丹のライバルとの勝負に勝ってもらいたいものだ。
「じゃあ、帰るか」
「はい」
屋敷へ戻り、私が部屋で本日二度目の風呂で汗を流し、寝ようと思った時に、また牡丹が部屋を訪ねてきた。
手には私がワックスまみれにした刀を持っている。
「ああ、それですね。すぐに綺麗にして返します」
「頼むぞ」
「はい、絶対綺麗にします」
私は、牡丹の目をみて、必死に誓った。
そんな私が可笑しかったのか、牡丹は口に手を当て小さく笑った。
「お前は真面目だなぁ」
「そ……そうですか?」
牡丹は私に刀を押し付けると、そのまま私の部屋へ入ってきた。
何だろう、今度は何の用事かな。
私は嫌な予感がしながら、恐る恐る牡丹に尋ねた。
「まだ何か?」
牡丹が敷いてある布団へ腰を下ろし、耳を疑うような提案をしてきた。
「今日は俺はここに泊まる」
「……え?」
これはまずいのではないでしょうか。
私の貞操の危機到来だ。




