歓迎会
あの後私は、合流した美雲と鈴雨にも高圧の技を見せることになり、披露したらまた二人にも驚愕された。
「なにこれ、柚子葉ちゃん何者!?」
「柚子葉さんは本当に掃除婦の方なのですか?」
詰め寄る二人に圧倒されながらも、自分でも何故使えるのかよくわからない旨を説明した。
魔術師かと疑われたが、みんなに巻物を見せ、職業欄が掃除婦になっていることを確認してもらい、何とか納得してもらえた。
その後、みんなで特技や技を検証し合ったところ、私と他の掃除婦では使える技が色々と異なっていることが判明した。
まず作れる洗剤の種類が違う。ワックスや塩素系洗剤等現代化学由来の洗剤は私しか使えない。他のみんなは米ぬかや木灰など天然のものを生成できるのだそうだ。
ここら辺は使用する者のイメージの差なのか、はたまた私と彼女達の“掃除婦”という職業が名前のみ同一でその実中身が異なるのかはわからない。
掃除婦にも転移者特典があったのだろうか、特典つけるくらいならもうちょっと冒険に向いている職業にして欲しかったと思わなくもないけど。
「今日はここら辺で切り上げるか、柚子葉のお陰で今日の作業分は完了したし、歓迎会しよう」
「歓迎会……いいのですか?」
「当たり前でしょ、柚子葉ちゃんは私達の仲間だし、仲良くしようね!」
「はい!!」
その後は、掃除人控え室でみんなで飲み食いしながら、色々な話をした。
「えっ! 柚子葉ここに住んでるの?」
「はい、太師の好意で」
私がどこに住んでいるかという話になり、この屋敷と答えたらかなり驚かれた。三人を含めこの屋敷に勤めている者達は鬼ヶ島に家があり、そこから通うのが一般的なのだそう。屋敷に住めるのは一部の家柄の良い良家の子女で、尚且つ位の高い女官のみなのだそうだ。
「私は妖に襲われていたところを太師に救ってもらい、家のない私に好意で場所を提供してくれて……」
「柚子葉さんは苦労をされたのですね」
「全然、大したことないです」
「でも、太師も柚子葉ちゃんの実力を買ったんだよ。柚子葉ちゃん掃除婦としてはかなり特殊だし」
「そう! 昼間すごい水圧で石掃除し始めた時は驚いたもん、魔術かと思った」
「ありがとうございます……私も木灰や米ぬかのような天然素材のもので掃除出来るって知らなかったからすごく勉強になりました」
木灰に水を入れ、その灰汁を使って洗剤の代わりに洗濯や掃除が出来るなんて初めて知った。
仲間といると、色々な新しい発見があって楽しい。
前の自分はコミュ障なのを理由に他人と関わろうとしなかった。しかし、今は仲間の存在をすごく大切なものだと心の底から理解している。
ふと、格子戸を見ると日が沈みきっていた。楽しいと時間が経つのが早い。
「じゃあ、私はそろそろ帰るね」
「もう、帰っちゃうのー?」
珠晴が私の肩を抱き、夜は始まったばかりと私を引き止めた。私はそれをやんわりと断る。
渡のことが心配なのであまり長居もしていられない。
「これ、少し貰ってもいいですか?」
余った飲み物や菓子を適当に分けてもらい、私は自分の部屋へ帰った。
渡はもう帰っているだろうか、私は部屋の戸を開ける。部屋中見渡すが、誰もいる気配がない。
「渡?」
呼びかけると、箪笥の隅からひょっこりと小さくなった渡が出てきた。
私はそんな渡を手の上に乗せてお疲れ様と挨拶をした。
「渡、今日はどうだった?」
「全く収穫がなかったでござるよ」
「そっか、残念だったね」
「明日から柚子葉殿の服の中に隠れて行動しても良いか? 一人だとどこがどこだかわからなくなってしまうのでござるよ」
「いいよ、私は渡が一緒の方がいいし」
「さすが、柚子葉殿。感謝する」
それから私は渡とさっきいただいた菓子を食べたり、交互にお風呂に入ったりしながら二人で夜を過ごした。
お風呂の件は一晩かかって、戸に鍵をかけ予告なしに誰かが入って来ないようにすれば、いくらでも誤魔化せると気が付いたのだ。
これで、渡と混浴する必要はなくなった。
その後も渡と今日会った仲間について話たりしながら、そろそろ寝ようかと思った時、誰かが私の部屋の戸をノックする音が聞こえた。
私は渡と顔を見合わせた後、渡に物陰に隠れてもらい、戸をゆっくりと開けた。
「太師」
時間外れの客人は、牡丹だった。
「入るぞ」
ラフな着物を着崩して、私の部屋にずかずかと入ってきた。
この人の家だから自由に出入りしていいのだろうけど、少し驚いてしてしまう。
仮にも私女の子なんだけどなあ。
「太師はもう私とは極力会わないものと思っていました」
「何故だ?」
「あまり好かれていそうな感じはしなかったので」
「別に嫌ってもいない」
「無理に雇ってもらったので迷惑な厄介者だと思っていらっしゃるのかと」
「それはそうだな。確かに厄介者だ。だがきちんと使い道もある、現状問題はない」
「そうですか……」
使い道……掃除婦としての仕事かな。
牡丹の言う通り掃除の仕事に手は抜かないつもりだし、このお屋敷をピッカピカにして雇ってもらえた恩はきちんと返すつもりだ。
「おい、柚子葉。今から俺に付き合え」
「今から?」
「そうだ。動きやすい格好でな」
「えぇーー……はい、わかりました」
私に拒否権はない。お風呂入ったのにまた外出しなきゃらなないのか……。
「掃除人控室の前で待ってる、着替えたら来い」
「はい」
私は太師に言われるがまま、支給された掃除用の作業制服(何故か現代仕様)に着替えて準備をした。




