掃除婦
朝起きてから渡とは別れた後、私は花梨に案内されて掃除婦の控え室まで来ていた。
屋敷の隅にひっそりと立つ蔵のような建物がそれだ。
「中へ」
花梨に促され中へ入ると三人の女の子が、掃除用具の準備をしていた。
扉の開く音に反応し彼女達がこちらに注目する。
「この子は柚子葉といいます。今日からこの掃除府にて働く者です。世話をお願いします」
「よ、よろしくお願いします……」
私は緊張しながら、同僚にお辞儀をした。
「人手が増えるのは歓迎しますが、随分と急ですね……」
「太師の指示です、妙な詮索は控えるように」
「へいへい」
リーダーのような立場の赤髪の少女が、花梨へ投げやりに返事をしたあと、こちらへ手を差し出した。
「よろしく柚子葉、あたしは珠晴、ここの責任者なんだ」
「は、はい。柚子葉です、よろしくお願いします」
珠晴は、おかっぱの赤髪と、男勝りな仕草に似合わない可愛らしい声をしている。
綺麗に着飾ったら、かなりの美少女なのではないだろうか。
残りの二人も次々とこちらへ手を差し出してくれた。
「柚子葉ちゃんね、私は美雲。同い年くらいだよね? よろしく!」
「私は、鈴雨、柚子葉さんはとてもお綺麗な方ですね」
私はそれぞれと握手を交わし、挨拶をし合った。
美雲は薄茶の髪をツインテールにして、栗のような目で人懐っこい眼差しをしている。
鈴雨は紺色のストレートロングの髪と垂れ目と大きな唇、そして視線を下げた先にある大きな二つのスイカが特徴的で、鈴雨が動く度にゆさゆさと存在を主張していた。
私は思わずセクハラ親父が如く、それを凝視してしまう。
「柚子葉さん?」
「あっす、すいません。何でもないです!」
初めて会った人の胸を思わず見つめてしまった。申し訳ない。
その後、珠晴から清掃箇所の説明と手順を軽く説明してもらった。
「柚子葉はどれくらいこの仕事の経験があるの?」
「実際働いたことは一度もないです」
「そうなんだ、じゃあ一から教えないとね」
「ありがとうございます」
「ちなみに掃除人の底力の技は持ってる? あれないと女の子にはキツい仕事だからさ」
「拾まであります」
私が答えるとみんながドン引きした顔をしていた。
掃除人の底力は汚い物への耐性がつきカンストすると汚物を素手で触る精神を得ることが出来る技だ。
そのせいか、皆がこいつ素手で掴んでるのって目で言っている。
普通はカンストしない技なのだろう。ぐちゃぐちゃの妖の死体片してたら自然と上がったので間違いではないのだけど。
ちょっとみんなと心の距離が離れてしまったようだ。
「うん、まあそれは人それぞれだしね、うん」
美雲がよくわからないフォローを入れてくれた。苦し紛れなのが手に取るようにわかって申し訳ない。
鈴雨は可哀想な人を見るような目で私を見ている。
居た堪れなさすぎるだろ。
「うん、その技があるならいいんだ、よし、作業を開始しよう」
珠晴はこの話題をサラっと流し、作業の指示を開始した。
それから、私と珠晴、美雲と鈴雨でペアになり、それぞれの作業箇所へ向かった。
私達の今日の担当箇所は赤竜殿の池の掃除だ。基本この四人でローテーションを組んで赤竜殿のみを掃除して回っているらしい。週一回日曜日だけは休みなのだそう。
私達は池に到着後、泳いでいた鯉を移動させてから、掃除の準備を整えた。
「えーっと、私は何をすれば良いでしょうか?」
「んーとじゃあ力試しってことで、最初は柚子葉一人でやってもらおうかな」
「は……はあ」
一人か。少し不安だな。
池の掃除は水の入れ替えと、苔の掃除と落ちた落ち葉や石の除去ってところかな。
「では、失礼します」
私はまず池の水を操作し、排水溝まで水を運び流し込んだ。
この世界は魔法で水が無限に作り出すことが出来るため、至る所に現代のように排水溝があり、こうして汚水を流すことが出来る。
私はそこにどんどん池の水を捨てていった。
珠晴はうんうんと頷き私を見ている。どうやら手順は間違っていないようだ。
水を捨てきった後は、まず落ち葉の除去をした。
落ち葉拾いの技を使い、自由自在に葉っぱを動かし袋に詰めていった。その姿を珠晴は「それも会得しているのね」と、感心したように見ていた。彼女の視線に異変が起きたのはその後だ。
私が高圧の技を使い、石の苔を削ぎ落そうとしたところ、珠晴が声を上げ柚子葉の肩に手を置いた。
「何今の!?」
「苔落としたら不味かったですか?」
「そうじゃなくて、その水がすごい勢いで出ているやつ」
「高圧の技ですか? どうかしました?」
「えっ、何今の、そんな技つかえるの!?」
「普通使えないのですか?」
「初めて見た」
どうやら高圧の技は一般的ではないようだ。
「これどうやって覚えたの?」
「経験を積んだら自動的に」
「掃除婦として働いたことないんじゃなかった?」
「個人的な修行です」
「どんな修行だよ!」
珠晴はノリが良いなぁ。
私はそのまま高圧で石の苔を落としながら、彼女と話しを続けた。
「水の魔法の高位なもので、高水圧を飛ばす魔法があるのだけれどそれではないのね?」
「多分、水を出してから高圧で飛ばしているので魔法のそれとは仕組みが違うので」
「そう……」
珠晴はそのままマジマジと、珍しいものを見るように私の手元を観察していた。




