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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
鬼ヶ島編
34/107

お風呂

 屋敷の東奥にある部屋に私は案内された。

 花梨は終始無言で気不味さ全開だ。それが無口から来ているのか、美徳とされているからなのか、単に嫌われているのかは私にはわからない。


 牡丹の居室を後にしたところで、花梨は顔を上げた。ずっと俯いていたため見ることが叶わなかったその顔は、小ぶりな目に、丸くて可愛いらしい鼻、一枚花びらが乗ったような唇と、ふっくらとした頬で形作られており、決して美人ではないが愛嬌のある顔立ちをしていた。私は彼女が笑ったらさぞや癒されそうだなと、印象を抱いた。

 ここにいる間に、一度でいいから彼女の笑顔を見てみたいものだ。


「食事を持ってこさせます、それまで入浴し、汚れを落とすと良いでしょう」

「あっ、はい。ありがとうございます」


 どうやら部屋に小さな露天風呂がついているようだ。

 花梨が去った後に、私は部屋付きのお風呂に入浴した。


「はぁ~、久しぶりのお湯最高~」


 洞窟では水しか浴びられなかったから、久々の湯船に体の疲れが芯から癒された。

 後で渡にも入らせてあげようと思った時、いないはずの物体が隣に現れた。


「温泉は良い物でござるな、長旅の疲れが一気に取れるようでござる」

「ひっ!? ふぐっ」


 悲鳴を上げそうになるが、渡に口を塞がれる。

 私は小声で渡を問いただした。


「部屋に置いて来たよね? 何であんたがここにいるのよ」

「拙者も温泉に入りたいでござる」

「私の後に入ればいいでしょ」

「入れ違いに入って、もし誰かが部屋に入ってきたら危ないでござろう? 柚子葉殿は部屋にいるのに別の誰かが風呂に入っているという状況になるでござる」

「そ、そうかな?」

「そうでござる」

「と、とりあえず今日はいいけど、明日からは対策考えるから」


 渡に何だか丸め込まれたような気がしなくもないが、入浴を許したのは渡には色々見られたり触られたりしているから、抵抗心が薄いのも関係しているかもしれない。


「そ、そういえば、渡……」


 私は渡の方をなるべく見ないように、視線をそらしながら話かける。私の裸を見られることはあっても、渡の裸は見たことがないので、視界の隅に入るだけで心臓が飛び出しそうだ。


「何でござるか?」

「わ、渡の好きな人って確か時雨氏の姫って言っていたよね、ここにいるのかな? 」

「片思いの姫は、時雨水仙の娘だから、ここにいるはずでござるよ」

「そっか、良かった。偶然とは言え幸運だったね」

「柚子葉殿のお陰で簡単に会えそうでござる。感謝している」


 渡が私の頭に手を置きぽんぽんとした。

 なんだろう、心の奥底が擽ったいような変な気持ちだ。

 渡の好きな人はどんな人なのだろう。

 想像してみるが、まったく思い付かない。


 その後、私が後ろを向いている間に渡に先に出てもらい、渡が出たのを確認し、私もお風呂を上がった。

 長湯で少し逆上せてしまったような気がする。なんだか身体が熱い。

 着替えは部屋に置いてある服を自由に着ていいと言うので、綿のワンピースのような一枚で着られる服を着た。

 その後、注文通り二人前来た食事を渡と食べ、今後の方針を話し合った。


「では、柚子葉殿。とりあえず拙者は明日は姫を探すため小さくなり屋敷を回ることにさせていただく」

「じゃあ、明日は別行動だね。ずっと一緒に行動していたから渡と離れるとなると不思議な感じがするかも」

「姫を見つけ次第また柚子葉殿と共にいる予定でござる。それに夜は帰って来るから完全な離れ離れにはならぬでござるよ」

「えっ? 姫を見つけても私と一緒にいてくれるの?」

「勿論でござる。しばらく共に行動させていただくつもりでござる」

「そ……そう」


 何だろう、渡のことを完全に信用しているわけでもないのに、嬉しさが心の底から込み上げて溢れてくる。

 目的を達成してもまだ一緒にいられるのか。


「柚子葉殿は嫌ではないか?」

「べ、別に、嫌じゃないよ……」

「それは良かった」


 渡は優しく微笑みながら、目を伏せた。

 渡の睫毛が長いことに、私は今、初めて気が付いた。


「柚子葉殿は何故ここで働きたいと申し出たのでござるか?」

「えっ? ああ、思わず言っちゃったというか、ぼた…太師はお金持ちっぽかったし。あの洞窟を出たら働かないとと思っていたからそれが口に出たというか」

「左様でござるか。柚子葉殿の目的はお金を貯めて故郷へ帰ることでござるか?」

「んにゃ、仲間とはぐれてしまったから、仲間と合流したいの」

「仲間?」

「うん、仲間達と旅をしている途中に蛙に食べられて洞窟に来てしまったの。洞窟に迷い込んでからは前に渡に話したよね」

「掃除婦を連れて旅とはなんというか、不思議な組み合わせでござるな」

「そうだね。私は随分と役立たずだった。しかも、役立たずなのを開き直って周囲のせいにしていた。だから皆に会って謝りたいんだ」

「大事な仲間なのでござるな」

「うん、そうなの」


 一緒にいた期間は短いけれど、鴇も真朱も瑠璃も夕霧もみんな仲間だと思っていたし、また一緒に旅をしたい。そして、再会出来たら渡を紹介できたらいいな。

 渡は強いし役に立つし居ても邪魔にはならないはず。

 その後食事を終え、私はお布団を敷きそこに寝転がった。

 渡は小さくなって、離れたところに重ねたタオルを置き、その上で眠っている。流石に同衾するわけにはいかないし、見つかっても大変なので物陰でこっそりと眠ってもらった。


 渡が眠ったのを確認し、私も灯りを消し眠りについた。


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