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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界へ
3/107

スライム

 私たちは、洞窟の入り口付近のお互いの声の届く範囲内で、武器になりそうな木の棒を探していた。


 中々手頃なサイズの棒はなく、あっても朽ちて使えないものがほとんどだった。

 “ひのきの棒”ですら、野生ではそう簡単に手に入らないものなのだ。


 なんとかして、手頃な木の棒を集め、集合場所へ持っていく。

 瑠璃と鴇は先に集まっていて、二人の足下には何本か木の棒が散乱していた。


「唐金さん、おかえり。いいの見つかった?」

「一応、こんな感じ」


 私は、瑠璃に収穫物をみせる。


「あっ、これ良さそう。これも使えるんじゃない?」


 私の集めた木は、瑠璃に好評だったようで中々に喜んでもらえた。

 他人に褒められるとやっぱり嬉しい。

 黙って立っていた鴇が、ふと、遠くを見る。


「おっ、あれは蘇芳か?」

「あ、本当だ、でも様子がおかしくない?」


 真朱は、何かを引きずるようにして、こちらへずりずりと歩いてきていた。


「蘇芳君大丈夫?」


 瑠璃が、真っ先に真朱の元へ駆けつける。私と鴇も後に続いた。


「だ、大丈夫。ちょっと重くて。これ、どうにか使えないかな」


 真朱の手元には、人の身長ほどの長さがある木の棒が握られていた。

 折れたての木は存外重いものだ。しかも、この長さだ。女子並みの体型の真朱では引きずるのがやっとなのだろう。


「いいよ、俺が持つから。貸してみ」

「う、うん」

「おー、結構いいじゃねーか」


 鴇は真朱から受け取った木の棒を軽々と持ち上げた。

 同じ男子でもこれだけ腕力が違うものなのかと、私は無言で感心した。


「すごーい、灰桜君力持ちなんだね!!」

「ラグビー部だからな。それで人より鍛えてるんだよ」


 クラスのアイドル・杜若瑠璃に褒められて、鴇は満更でもなさそうだ。

 鴇のこれは、完璧に瑠璃に惚れているのだろう。

 並んだ感じお似合いだし、心の中で密かに応援するよ、頑張れ。

 それにしても、好きな子と異世界トリップとは羨ましい。こっちは大して仲良くもないクラスメイトしかもリア充と一緒で息苦しいだけだというのに……。

 私は彼等を見て小さく溜息を洩らした。


「よし、みんな武器は持ったかな?」


 私達は集めた木の棒から手近なものを手に持っていた。鴇は真朱の持ってきた木の棒……、長さ的には杖と例えた方がいいだろうか、それに決めたようだ。

 先ほど私も、木の杖を持たせてもらったが重くて持てたものじゃなかった。これは、確かに鴇しか持てない。


「じゃあ、しゅっぱーっつ」


 瑠璃は全員手に、急あつらえの武器を手に持ったことを確認し、合図を出した。合図とともに私達は森から脱出するための一歩を踏み出した。


 ※


 森の中は足元に草が鬱蒼と茂っている訳ではなく、ローファーでも比較的歩きやすかった。

 ある程度地面も見渡すことができるため、突然蛇に噛まれる可能性も低そうである。

 先頭は、鴇が自主的に歩いてくれている。毒のある生き物避けも兼ねて、彼の持つ木の杖で草むらを叩きながら先へ進んでいった。


「何だこれっ!!! 離れてっ」


 ある程度進んだところで、突然、真朱が叫び出した。


「な、なんか上から落ちてきて、ぼ、僕にぃ……く、首の後ろでなんか動いてる、と、取って!!」


 私達は真朱のうなじ辺りを見ると、そこにはどろどろとした半透明の物体がうねっていた。これは、もしかして……


「スライム……?」


 しかし、それはロールプレイングゲームでよく見る顔のある可愛らしいモンスターではなく、顔や目の類いは目視では確認できず、微生物のアメーバのような形をしていた。

 半透明の体の中には血管のような赤い線が張り巡らされ、内蔵のようなものが動いてるのも見える。

 モンスターというよりSFに出てくる謎の宇宙生命体のような姿をしていた。


「何だよ、これは……」

「いやっ」


 目の前の生物のあまりの気持ち悪さに、みんな一瞬怯んでしまう。

 しかし、鴇は己を奮い立たせるように首を振り、真朱の首の後ろについたスライムを剥ぎ取り、木の幹へ思い切り投げつけた。スライムはべしゃりと弾け、絶命したのかそのまま木に垂れるようにへばり付き動かなくなった。


「な……なんなんだよこれ」


 鴇は、スライムを掴んだ自分の手を放心したように見ている。

 真朱は、自分についていた奇妙な物体だと知り放心状態になり。瑠璃は、スライムの気持ち悪さに涙を浮かべ震えていた。


「スライム……」


 私がぼそりと口にした言葉に、鴇は何かを察した表情をした。しかし、それに対して何か発言することはなく、思案するように黙ってしまった。


「いやぁ!!」


 今度は、杜若が叫び声を上げた。上を見上げて、震えるように空中を指していた。

 その方向を見るとそこには、スライム、スライム、スライム、スライム……。大量のスライムが樹木の枝の上からこちらを虎視眈々と狙っているではないか。

 全員で逃げようとするが、地面も大量のスライムに囲まれ逃げることができない。

 ジリジリと追い詰められる私達。真っ先に動いたのは鴇だった。彼は武器として持ってきた木の杖を横に振り敵を弾き飛ばし、時には突き、スライムを次々と退治していく。

 着実に止めを刺していくが、その量は一人で捌き切れる量ではなく数の暴力に負け押されている。

 攻めに転じていたのは最初だけで、鴇の身体にスライムがベチャリと着きそれを引き剝がし、倒す、防戦一方にすぐなってしまった。

 瑠璃は、自分を狙うスライムから逃げるだけだが、運動神経の良さが幸いし、着実にスライムの攻撃を避けているようだ。

 真朱は現実を直視出来ないいようで、頭を抱えて皆の中心で蹲ってしまっていた。


 私は、その場を走り、スライムが枝の上にいる木の下で立ち止まり、上から落ちてくるスライムを下へと誘導して回った。

 スライムの知能はほとんどないようで、自分の下へ来た私目掛けて簡単に落ちてくる。敵に遠距離攻撃の手段もないのも幸いしていたのだろう。スライム全部が直接攻撃をしようと体当たりしてきたが、来る方向さえわかっていれば、スピード自体はないため、避けるのは簡単だった。

 上のスライムが落ちきったことを確認すると、私はその場で一番大きな樹木を背に立った。これで背後と頭上から攻撃される心配はない。私は向かってくる敵を各個撃破していく形を作れた。

 私の貧弱な木の棒でも思い切り叩きつければ簡単に倒せる、後はこの繰り返し作業を続けるだけだ。


「やめてっ!! 来ないで!」


 騒ぎの中心部では、真朱にスライムが付き、助けを求め泣き叫んでいる。申し訳ないが助けている余裕は私にはない。強い敵ではないので自分でなんとかすることを願う。

 鴇も瑠璃も真朱を助ける余裕はないようだ。

 そうこうしているうちに、真朱を攻めるスライムの数は増えていき、真朱の足や腕へどんどんへばり付いていった。

 真朱は悲鳴を上げながら振り落とそうと身体を振るが、スライムが彼の身体から離れることはなかった。スライムが徐々に上へ上がり、ある一匹が真朱の顔面へ差し掛かったとき――。


「うわぁあぁぁぁぁ!!!」


 彼の身体が一瞬炎で燃え上がった。

 その現象は、彼の身体についていたスライムだけを燃やし、真朱の身には焦げ跡一つ残してない。

 真朱は何が起きたのかわからず、呆然とした様子で立ち尽くしている。

 他の二人は、真朱の身に起きた一瞬の出来事を見ていなかったようで、無事に立っている真朱を一瞥だけした。

 やはり、そうだ――。

 オタクでラノベやゲームに慣れ親しんだ私は確信した。


「蘇芳君! 他のスライムを見て、消えろって思って!! 火で焼き尽くす様を想像して」


 真朱は私の言葉に最初困惑した表情をしたが、本人にも察するところがあったのか素直に実行してくれた。

 真朱が睨んだ先にいるスライムに火が付き、燃え上り、灰になる。

 真朱は、己の考えが現実になったことに一瞬驚いた表情をするが、スライムを消す手段を得たことに強気になったのか、すぐに眼差しを真剣なものへと切り替えた。

 真朱がどんどんスライムを燃やし倒していく。他の二人もその様子に気がつき、目の前で起きる超常現象に釘付けになっていた。

 スライムは、火が弱点なのか、真朱の発する火から遠ざかるように次々と逃げていった。

 無限とも思えるくらい数がいたスライムはみんな逃げ去り、私達が倒した残骸だけが散らばっていた。


 私達は、みんな息切れし、息を整えながらその場で立ちつくしていた。


「痛っ」


 沈黙を破ったのは鴇だった。どうやら先ほどの戦いで怪我をしたようだ、右腕を押さえ怪我の様子を見ている。


「鴇君、見せて」

「いい、大した怪我じゃねーし」


 瑠璃が鴇へ近づくが、彼はさっと怪我の部分を隠してしまう。


「いいから、見せて。怪我から雑菌が入って大変なことになることもあるのよ」

「本当っ大丈夫だからっ」


 瑠璃はやや強引に鴇の怪我を確認した、怪我を隠す手をどけると、その下には黒く変色した傷口があった。血は出ていない様子だ。おそらくただの擦り傷だったのだろう。

 しかし傷口の周り数センチくらい真っ黒になっており、小さな傷口からは血ではなく膿がだらだらと溢れ出ていた。

 スライムの特殊な毒でもあるのだろうか、皮膚の黒い部分はこの短時間でも徐々に広がっているように見え、このまま放っておいたらとてもじゃないが助からないだろう。


「は、灰桜君! やだっ、これ、どうにかしないと!」


 瑠璃がややパニックを起こし、鴇の腕に触れた途端、それは起こった。

 鴇の傷口が少し白く光り、その後、奇跡が起きたかのように、鴇の傷が完全に治癒されたのだ。


「「?」」


 その場にいた、全員が何が起きたのか自覚できなかった。


「杜若。その、怪我治してくれてありがとうな」

「治って良かったけど、私、何もしてないよ?」

「いや、杜若が治してくれたんだろ。治癒魔法で」

「魔法……?」


 どうやら、鴇もこの世界について気がついたようだ。鴇はゆっくりとみんなを見渡しながら説明を続けた。


「蘇芳は、火の魔法を使った。杜若が今使ったのは、治癒魔法だ。多分ここは異世界。俺たちは何かの拍子で異世界に来ちまったんじゃねーか……と、思うんだけど、どうよ?」


 瑠璃と真朱のキョトンとした表情に、自分の発言が恥ずかしくなったのか、最後は私に同意を求めるように、強引に話題を振ってきた。

 私は、黙って頷き、鴇の意見に同調した。


 ここは、おそらく異世界だ。

 魔物と魔法があるファンタジーな世界に、私達は放り出されたのだ。




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