鬼領へ
瑠璃、真朱、鴇、夕霧は鬼の領土―扶桑―へ来ていた。
今、四人は商人に扮している。
戦闘職の者が国境を通るのは何かと手続きが面倒らしく、夕霧の提案で、皆は商人としての偽造身分証を使い侵入したのだ。
「結構あっさり入れたな」
「でも、すっごいドキドキしたよ。何事もなくスルーされて安心した。ほんっと夕霧さん流石です」
瑠璃が夕霧の腕へ自分の腕を絡ませ、上目遣いの猫なで声で夕霧に懐く。誰が見ても夕霧に恋する少女にしか見えない。その光景をみて、鴇は少し複雑そうな顔をした。
「夕霧さん。鬼領に無事入れたけれど、引き続き商人の格好は続けた方がいいのですか?」
真朱が話題を変えるように、夕霧に投げかけた。
大抵こういった調整役は真朱の役目なのだ。
鴇は向こう見ずなところがあるし、瑠璃は最近夕霧しか見ておらず行動理由が夕霧基準になっている。
二人に割り込んでいかないと、話がスムーズに進まないため、真朱がその役を買って出ているのだ。気が小さく他人に遠慮しながら生きていた真朱だが、ここに来て随分と精神的に図太くなったのではないだろうか。
「そうですね、機を見て商人の格好は止めましょう。どちらにせよ領土の奥に行く程に人間がいることに違和感が出てしまうので、どこか人気のないところで鬼の角をつけて変装します。鬼とは角以外の身体的特徴以外の違いはありませんから角さえ付けていれば誤魔化せるでしょう」
「ありがとうございます、心得ました」
その後、彼らは山道を逸れ、装備を変え鬼の角で変装を施した。
鬼の角は魔法の力が働いているのかぴったりと、さもそこに今まであったかのようにつけることができた。
夕霧はみなに、角はとても高価なもの故、代えがなく、決してなくさぬようにと忠告した。
変装を済ませた一行は、鬼領にある主要な街道を進みながら、鬼ヶ島を目指し歩いた。
鬼領に入ってからも、街から外れると妖と出会うことが多く、妖と戦闘しながら街道を進んでいた。
そのことに、少なからず転移組は違和感を抱き始めていた。
「おい、真朱」
鴇は夕霧から距離を取り、真朱に耳打ちをした。
「何?鴇君」
「雪羅は妖を操る力があるんだよな?何で鬼領に妖がいるんだよ」
「それは僕も少し思っていた。雪羅の件が真実だとして、自分の領土に妖を放つ意味がわからない」
「夕霧さんに聞いてみっか? 何か理由があるのかもしれないし」
「やめとこう鴇君、もし理由があってそれが真実ならばいいけれど、偽りの情報の場合、それを聞いたために思考停止に陥って、そのまま偽の情報に踊らされることになる。その事態は僕はそれは避けたい」
「お、おう。そうだよな。騙されたら困るものな」
「あと鴇君、瑠璃ちゃんにも黙ってて」
「でも、杜若も仲間だぞ」
「あの様子で夕霧さんを疑うと思う?」
「それは……、でもあいつも馬鹿じゃねぇし」
「やめておこう、瑠璃ちゃんを傷つけたくないでしょ?確証が得られるまでは黙っておこう」
「そ、そうだよな」
鴇は瑠璃を切なそうな表情で見つめた。
もし、夕霧が黒だったとして瑠璃の気持ちが冷めたらと、鴇は考えてしまったが、すぐにそれを振り払った。
鴇は瑠璃が傷つかないためにも、夕霧が白だと証明するべきだと考え直したのだ。
※
一行は大きな町へつき、そこで宿を取ることにした。
その町の住人は、みな一様に角が生えている以外は人間と変わらぬ姿形をしていた。
しかし、文化は異なるようで、服装が人の国は着物のような上下で一枚の布になるようなものを着用しており、それを何枚か重ねて着る者が多かったが、鬼の国では男性は上に詰襟のシャツのようなものか、着物を一枚着て、下にはダボついたズボンを履いているものが多い。女性も着物、もしくは詰襟の服の下にスカートを穿くのが一般的なようだ。
しかし、女性の方はある程度自由な服装をしており、型にはまらない格好をしている者も見受けられる。
建物の形はほぼ人の国と変わらなかったが、鬼の国の方が華やかな色味をしている建物が多かった。
宿は基本、真朱、鴇、夕霧で一部屋、瑠璃で一部屋で計二部屋とっている。
夕食は宿で四人一緒に取る場合が多いが、それ以外は基本別行動だ。
その日、鴇は一人部屋で休憩をし、真朱は一人で風呂へ入り、瑠璃は夕霧に付き纏っていた。
布団の上で寛いでいた鴇は、部屋をノックする音に反応し戸を開けた。すると、そこには見知った顔がそこにいたため、鴇は笑顔で応対し、その者を部屋へ迎え入れのだった。
そして一時間後――。
鴇、真朱、夕霧が使用している部屋に夕霧が帰り、戸をノックするも誰の反応もない。
誰もいないのだろうと思い、スペアキーで戸を開け部屋に入ると、夕霧はその異様な光景に目を瞠った。
そこには夥しい血肉が部屋中に散らばっていたのだ。
一つ一つの肉片が約数センチ程しかなく、元が何の形かわからない。
いや、違う、わからなければ良かった。
なぜ、ご丁寧にそれだけ綺麗に残っているのだろうか。
部屋の端に首だけが残っているのだ。そのせいで嫌でもこの肉片が誰のものか理解してしまう。
もし、首も含め全てが肉片に変わっていたなら、彼が生きている可能性にも縋ることが出来たのに――!
夕霧が部屋の前で放心していると、風呂から上がった真朱が部屋へ戻ってきた。
「夕霧さん、どうかしました?」
「……!?」
真朱が夕霧の視線の先を覗き込む。夕霧は止めようとしたが間に合わなかった。
「これは……」
真朱はその光景の凄惨さに震えながら背後へ下がり、尻餅をついてしまった。
今度は隣の部屋の瑠璃が、騒ぎに気がつき顔を出した。
「瑠璃さん、いけません!こちらには来ないでください!」
「何かあったのですか!?」
瑠璃は遮る夕霧を押し退け、惨劇のあった部屋を覗き見た。
「これは……」
瑠璃は部屋を睨むように一望し、転がる生首に気がついた。
「鴇君……?」
「うわあぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
真朱が頭を抱え叫び声を上げ、その場に伏せて泣き始めた。
瑠璃も気分が悪くなったのか、口を押さえ壁に手をつき、必死に吐き気と戦っているようだった。
誰が――何故――こんな惨たらしい殺し方をしたのだろうか。
あまりの出来事に、三人はその場でしばらく放心していた。




