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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界へ
28/107

脱出!!

 あれから私と渡は、順調に洞窟を進んでいった。

 妖も然程脅威ではなく、渡と協力しながら安定して倒すことができた。お陰で例の私の力は使う必要もない。


 それと、鏡を抜けて鬼領に入ってから、大きな変化が一つあった。渡のラッキースケベが一切なくなったのだ。

 服が不自然に破けることもないし、渡が私の身体に触れることもなくなった。

 鬼領に入って効果がなくなったのかな?

 私としては喜ばしいことだけれど、少し不思議だ。

 美形といえど、好きでもない男に触れられるのはやっぱり不快感があるし、なくなった事自体は大歓迎なのだが……。


「そろそろ、洞窟の出入り口でござるな」

「マジ!? やったーやっと出られるのね」


 ついにこの時が来た。どれ位の期間が経ったのだろうか。

 みんなと無事再会出来るかな、チート達だから殺られてることはなさそうだけど、再会するタイミングが上手く合うかが心配だ。

 私は誰かと会った時のために、服を前後に着替え直した。胸のところに開いていた大きな穴はこれで背中へ回った。


「ねぇ、渡。鬼の王様に会うためには鬼ヶ島を必ず通らなきゃいけないんだよね?」

「左様でござるな。何せ海上に建つ城の周辺は波が荒く、渦もある。鬼ヶ島から続く橋を通らないことには侵入は不可能でござろうな」

「そっかぁ」

「柚子葉殿は、まさか鬼王に会うつもりであるか?」

「いやー、まさか、何となく聞いただけ」


 自分が異世界から転移してきて、鬼王を倒す使命があることは流石に言えない。

 掃除婦だし信じて貰える気がしないし、渡のことも全面的に信頼出来るかというと怪しいしね。


 正直なところ、私は渡のことを何も知らない。色々話題を振ったりするが、少しでも立ち入ろうとするとはぐらかされてしまうのだ。ただの日常的なことや、一般的なことは教えて貰えるけれど、出自や職業について等、渡個人の事情には全く答えて貰えない。

 反応からするに、鬼の姫に片思いしているというのは本当なのだろうけど……。


「あっ光が見えて来たでござるよ!」


 渡が指をさした方向を見ると、上方で確かに光が射し込んでいた。明かりの雰囲気から言って月光だろうか。逸る心を表すように、歩行速度が自然と早くなってしまった。

 光が射し込む出口に至るまでの道程は、人一人入れる程の坂道になっており、這って進めばなんとか抜けられそうだ。


「ここを登ったら、ついに地上なのね」

「長い道程でござったな」

「うん、泣けてくる」

「ところで柚子葉殿、拙者は一寸になるので暫く隠しておいてくださらぬか?」

「なんで」

「柚子葉殿は一介の掃除婦でござるが、拙者は武士。政治的な意味で鬼領で見つかると厄介でござる」

「そう、まぁ、そういうことならいいけど……」


 私は渋々と承諾した。

 いいように使われている気がするけど、渡には色々とお世話になっているので一肌脱いでやろう。

 渡をポケットに仕舞い、穴を抜けるべく這い上がっていく。

 手を穴の出入り口にかけ、一気に体を引き上げた。


「やったー! 外だーー! ……って、え?」


 穴から出て最初に見たのは、抱き締め合う男女の姿だった。男の人が女の人を背後から包み込むように手を回している。

 どうやら私は、ラブシーンの最中に飛び出してしまったようだ。

 男女は驚いた顔で私を見つめていた。


「こ、こんばんは〜」

「…………」

「私は、柚子葉、掃除婦です」

「掃除婦……?」


 男の人の方が物凄く怖い顔で私を睨んでくる。

 よく見ると、二人の頭には角が生えていた。男の方が三本、女の方が一本だ。

 男の方は、黒い髪に、朱雀のような鳥の刺繍の入っている上等な着物を着ていた。女の方は肩までの長さの白い髪に金の目、着物も白が基調の物を纏っていた。

 一目みて、金持ちの貴族だということがわかる装いだ。

 二人は、物凄く怪しい者を見る目で私を凝視している。

 これはヤバイ、何か言わないと……。


「えーと、あの、私のこと雇ってくれませんか?」

「「は?」」


 ※


 私は、男の方の鬼——名を時雨牡丹と言うらしい——と共に洞窟からの出口付近に残っていた。

 女の人の方は牡丹が先に帰したため今はいない。


 あの後、私は怪しむ男の鬼に必死に自分が運悪く洞窟に落ちた哀れな掃除婦だということを主張し、有難いことに何とか理解をして貰えた。

 密会の事を黙っているのを条件に、試験をクリアすれば、時雨氏のお屋敷で雇って貰ってもいいとのことだった。

 口止めされるってことは、二人は秘密の恋愛なのかな、好奇心は唆られるが身の安全のために一切関わらないで置こうと心に誓う。


「柚子葉といったか」

「はい」

「例の洞窟を掃除婦の身で抜けたというのは、一切の偽りがないのだな?」

「だからここにいるわけなのですが」

「……そうだな。お前の雇用の試験の件だが」

「何でしょうか?」

「今、ここで俺と戦い、生き残ることが出来たら正式採用しよう」

「えっ? 戦う? 貴方と?」

「そうだ。あの洞窟の妖と戦い勝ったのだ。俺を倒すことなど造作もないはずだ」

「それは……」


 一瞬で息の根を止める技を使ったら確かに倒せるけど、この人殺しちゃったら雇って貰えないし意味がなくなってしまうな。でも、勝たないと雇って貰えそうにないし、ここは一か八か戦ってみるしかないのかな。

 最悪殺されそうになったら、例の技で先に殺してしまえばいいわけだし。

 よし、そうしよう。

 雇って貰った方が情報を仕入れやすいから、みんなと合流するためにも、なるべく牡丹は殺さず、雇用の方向で話を進めたいのだけど、万が一の時は仕方がない。


「戦うのはやぶさかではないのですが、何故掃除婦の私と戦う必要が……」

「俺は強い奴と戦うのが好きなのだ。お前の強さ次第では待遇を良くしてやる」


 牡丹は戦闘狂のようだ。私も強い相手と戦うのは嫌いではない。


「わかりました。牡丹さんと戦いましょう。勝利条件は?」

「俺が勝ち目がないと思ったらそれで終わりだ。ちなみに俺は本気でお前を殺しにかかるからな。覚悟しておけ」

「はーい」


 時雨牡丹が腰に携えた刀を抜き、切っ尖を私へ向けた。

 なんとなく私もそれに合わせ、霧吹きを出し構えた。

 特に意味はないが、手ぶらなのも寂しいかなと思って。


 そして、その場に緊迫した空気が流れた。


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