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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界へ
25/107

封印されし龍

「いたたた……」


 鏡の先は亜空間のようになっていた。

 どこからが床で、どこまでが天井なのかも一見してはわからない。

 無限にも思える空間を見ているだけで酔いそうになる。


「柚子葉殿……重い」

「ひゃあ!! 渡、ごめん!」


 私は渡の上に、乗っかってしまっていたようだ。

 重いって言われた、ちょっとショック。確かに軽くはないけどさぁ。


「ここは、どこなのかな」

「魔法で出来た結界の中であろうな、脱出条件を満たせば出られるはずでござるが」

「脱出条件?」

「拙者もよくわからないでござるよ、大体誰かを通したくないが、自分が通れないと困る場合にこういう結界を作るのでござる。大抵なんか強力な妖を倒せということが多いでござるな、例えばこんな感じの……」


 渡が私の背後を指す。

 盛大に嫌な予感を感じながら、後ろを振り向くとそこには、それはもうとてつもなく大きな龍がいらっしゃった。

 

「ひぃっ」


 龍は黄色の鱗に覆われ、赤い鬣を棚引かせ、宙から侵入者を見下ろしていた。

 強い、見ただけでわかる。

 これで弱かったら詐欺だ。


「柚子葉殿、拙者が先陣を切るでござる、隙をついて援護してくだされ」

「う、うん」


 そういうと、渡はその場で一寸のサイズになった。


「えっ? 小さくなるの?」

「この方が敵の動きを翻弄出来るのでござるよ」


 渡は、小さい体で龍の方へちょこちょこと走っていく。

 そして、無事龍へ辿り着くことが出来たが、龍に軽くデコピンされ、簡単に吹っ飛ばされてしまった。

 弧を描きながら、こちらへ飛ばされてくる渡を、私は無事キャッチする。


「渡、大丈夫!?」

「…………」


 返事はないが息はある、どうやら気絶してしまっているようだ。

 早くも使えなくなった相方を、服のポケットにしまった。


「クク……」


 龍対掃除婦とかシュール過ぎるなと、自嘲気味に笑った。

 さて、どう攻撃したものか。

 敵から仕掛けてくる様子はない。悔しいが、私達の存在など龍からしたらゴミ虫以下なのだろう。

 ならば、まずはこちらから攻撃を仕掛けるしかない。


 ワックスを生成し、龍にぶっかけ、それを瞬時に固める。

 大抵の妖はこれである程度は動きを封じることが出来るが、龍は身を捩り、一瞬でワックスを飛ばしてしまった。


「ダメか……」


 今度は龍が攻撃を仕掛ける番だ。

 龍の口が何やら熱を帯びたように、赤い光を放つと、次の瞬間、龍は私目掛けて口から火球を一、二、三発、繰り出した。

 私は瞬時に洗剤を生成し、それを火球目掛け十メガパスカルの高圧で発射した。

 火球は洗剤に飲み込まれ、一瞬で消え去った。


 火球を消され、龍の纏う空気が若干変わった。

 私に対し警戒心を強めたのが伝わってくる。

 何故だろう……、緊迫した空気が妙に心地良く感じるのは。


「ちょっと、楽しいかも」


 自分の新技を心置きなく試せると思うと、気分が上がってくる。

 あれ? いつの間に私こんな戦闘狂になったんだ?

 妖を怖がっていた、あの頃が懐かしい。この成長した姿を早く鴇に見せつけてやりたい。


「みんなと再会するためにも、頑張らないとね」


 私は水の圧力を、一気に三百メガパスカルまで上げた。念じればさらに圧力を上げることが出来るが、強ければ強い程、体力を消耗してしまうのだ。


 私は、手で銃の形を作り、指先を龍に向けた。

 仰け反り防止のため空中に水を生成し、指の先から打つように高圧の水をレーザーのように射出した。

 空中に水を作れるから銃ポーズの意味はないのだけれど、何となく技っぽい雰囲気出したくてやった。後悔はしていない。


 直線に射出しながら龍を狙うが、素早く避けられてしまい当たる気配がない。

 それではと直線攻撃は止め、数センチ程の水球を次々と作り、四方八方に連続した攻撃を繰り出した。

 威力は下がるが、当たれば充分ダメージになるはずだ。


「てやっ! てやっ! ほいやー!!」


 これは、高圧の技を覚えた時に考えた、なんちゃって高圧機関銃だ。

 しかし、龍は私のなんちゃって高圧機関銃をいとも容易く爪で裂き、消し去ってしまった。

 だが、これも予測の範囲内だ。私は既に次の攻撃に入っていた。


 高圧の水を下に向け発射し、その勢いで飛び上がり、空中から龍の顔目掛け、塩素系洗剤と酸性洗剤を混ぜたものをぶっかける。

 龍の顔の周辺に塩素ガスが発生するが、龍は鬱陶しそうに顔を数回振っただけで、平然としていた。

 龍が話せたら「何かしたか?」とか言われてそうだ。


 今度は龍が私目掛けて、高速で突進してきた。

 私は、高圧の水を発生させ、その反作用を使い宙を舞い、龍の突進を避けるも、龍はUターンし再度私に突進してくる。

 私はそれを、床、右壁、左壁、天井を高圧の反作用を使い避けていった。


(しまった……!)


 しかし、徐々に龍のスピードに間に合わなくなり、龍の突進を避けるのがギリギリになってしまった。

 そのまま龍の頭の上に落下する私。

 振り落とされないよう、手元にあった龍の頭の二本の角を咄嗟に掴み、態勢を整えた。

 龍の角を掴み、龍の頭上に立つ。

 龍の頭上で立ちながら宙を舞う様は、まるでどこかの昔話アニメのオープニングのようだ。

 龍も戸惑っているのか、私をなんとか振り落とそうと部屋の中飛び回る。

 端から見たら私と龍が、仲良しに見えそうな光景なんだろうな……。

 さて、ここからどう攻撃に転じようか。



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