新武器登場?
あれから私と渡は、一緒に出口を目指して洞窟探索をしていた。それは、安穏とした旅ではなく、山あり谷あり、私は道中とっっても悲惨な目に会い続けたのだ。
そう……渡のせいで。
その苦労は、妖退治は勿論なのだが、やはり渡の特殊能力が主たる原因である。
まず、今までの戦いでビクともしなかった私の作業服が、雑魚妖との戦いで呆気なく破けた。
巨大カマキリの形をした魔蟷螂という妖との戦いでのことだ。
魔蟷螂は羽を広げ宙を飛び、大きな鎌を振りかざし攻撃をしてくる妖だった。そいつが、私達の視界へ入った途端、こちらへ宙を舞いながら飛び掛かってきた。敵が両手の鎌を振りながら羽を広げ、空中から攻撃を繰り出してくる。
即座に私は後方へ避けたが、既の所で鎌の先端が調度私の胸辺りの布を擦り、服だけが綺麗にパックリと切られてしまった。
魔蟷螂は、私が羽と鎌をワックスで固め、あとは渡が体を切り刻み倒せたが、それから常に胸を隠して歩かなければなくなり、その後、戦いで両手を空けなければならない時は、胸が丸出し状態になってしまう事態が発生した。
服を前後に一回転させればいいのだけど、背中の生地まで切られたら悲惨なため、それをするのはダンジョンから出て、人里に降りるときにしようと心に決めていた。
その次は、渡とY字路の左右に離れてから服を脱いで水浴びをしていたときだ。
渡が何故な妖を連れ此方へ走ってきて、そのまま私は妖と全裸で戦闘する羽目になってしまった。
その妖は長い触手を幾つも持った、まるで横倒しになったクラゲのような形をしていた。渡が言うには巨大粘玉がさらに進化した粘海月という妖だそうだ。
私と渡は触手に捕らえられ、ぬるぬる攻撃であらぬ所を刺激され、力が入らなくなり意識も飛びかけたが、なんとか塩を生成し、それを浴びせ粘海月を倒した。
しかし、無事倒したと思ったら、コケた渡が私を押し倒し、何故かその不可抗力で私の胸の先を咥えてきたのだ。
「やっあぁ、渡、離れ……」
「はっ、すまぬでござる!」
なんてやり取りも頻繁にあったし、その他にもあんなことやこんなことや、ギュムギュムやクパァやビクンビクンやドピュドピュ等ともかく色々なことがあった。
わざと? わざとだよね? 本当に天然なのか?
もう、お嫁に行けない……
そもそも私のようなコミュ障に結婚なんて無理か。
ダメだ鬱になってきた、考えるのやめよう。
渡は小さくなって、私のポケットに入れてある。
運んでやるのは不本意ではあるが、この状態の方がまだスケベ被害が少ないから仕方がない。
洞窟を渡の指し示す方向に歩いていくと、私達は大きな扉に辿り着いた。
「扉? 出口なのかな?」
「まだ出口はもう少し先でござる。しかし、扉が何故こんなところに……」
「まあ、いいや。開けるよー」
「ちょっ、柚子葉殿! 慎重に……」
私は渡の制止も聞かず、扉を思い切り開けた。進まなければならないのなら迷っていたって仕方ない。
「これは……」
扉の先は、まるでRPGの玉座の間のような光景が広がっていた。
真っ白い壁に太く大きな柱、大理石の床の上には中心に真っ赤な絨毯が引いてある。
絨毯の先には大きな観音開きの箱が置いてあるようだ。
「なにあれ」
「武器か防具なのではないか? 神かご先祖様の手により洞窟に大切に保管されているものも多いでござる」
「武器や防具を仕舞うのは神様やご先祖様様なの?」
「神が気まぐれで洞窟に忍ばせてそれを求めて冒険するもので賭けをしたり、ご先祖様が己の武器を強い者に託そうとしたりでござるなぁ」
ダンジョンの宝箱にそんな謂れがあったのか。神という存在が信じられているというのも初めて知った。
そうとわかれば、確認しない手はない。
何か使えるものが入っていたら儲けものだし、装備できないようなものでも損はしない。
私は、箱の方へ小走りで近寄り、観音開きの扉を両側へ開いた。
「これって……」
「こんなもの、初めて見るでござる」
箱の中身は私の肩くらいの高さがある機械だった。
上から持ち手、水を入れるようなタンク、直径三〜四十センチくらいの金属の円状のものが付いている。
これは多分あれだ、あれ……名前がすぐに出て来ない。部活の部長が掃除に使っていた……
「そうだ、ポリッシャーだ!!」
「ポリ? え? なんでござるか?」
「ああ、ごめんなさい。床掃除に使う道具なの。でも、何故ここにポリッシャーが……」
「掃除で使うものなのでござるか、初めて見たでござる」
「仕方ないよ、武士の人が知ってるわけないもの」
そもそもこの世界ではポリッシャーなんか使って掃除していないだろうから、掃除職の人でも知らなさそうだ。
しかし、スクイジとかポリッシャーとかこの洞窟にあるものは何故、現代基準の掃除用具なのだろうか。
まるで夢の中のような頓珍漢な世界観だ。
解せないながらも私が箱の中身に触れようとしたところ、突然ポリッシャーが動き出した。
「えっ、な、何?」
「柚子葉殿、下がるでござる!」
渡が私の作業服のポケットから出て、元のサイズに戻り刀に手をかけ警戒する。
刀VSポリッシャー
見たいような見たくないような……。
深夜のテンションなら、楽しめそうな気がしなくもない。
そのままポリッシャーはゆっくりと箱から出て、一度止まり、その場でタンクがある上方を、後ろ斜めにゆっくりと倒した。
なんだこれは、何が始まるんだ。
すると、今度は突然、ポリッシャーが黒い邪気のような煙を上げ始めた。
「柚子葉殿! この掃除道具は呪われているでござる」
「呪われているって?」
「洞窟など、奥深くに眠っている武器や防具は稀に邪気が宿り、敵として立ちはだかることがあるのでござる! ぽりし、す? ぽりす……ともかくこの掃除道具にも邪気が宿り、倒さない限りこれを手に入れることは出来ないでござる」
どうやら、渡はポリッシャーの名前が覚えられなかったようだ。
無理しなくていいのよ。
ポリッシャーは邪気を発し、こちらへ下方にある金属の円状のものを左右に振り子のように振りながら、ゆっくりとこちらへ近づいてきたのだった——




