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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界へ
16/107

鬼ヶ島 ~ある少年の願い

 鴇達一行は夕霧に案内されながら、着々と鬼領までの道を進んでいた。


 途中に寄った村や町では、偉い人に挨拶され宴を催してもらったり、頼まれて妖退治をしたりと、みんな力を上げ強くなっていっていた。

 ダンジョンの中に武器や防具などの隠された装備があったのも事実で、最初の町で双子の姫に与えられたものより、強力な装備を皆が身につけていた。

 鴇は、強くなっていく自分に喜びを感じ、そして、何故あの時あの場所で力がなかったのか悔やむのだ。

 転移仲間だった柚子葉は、鴇達の目の前で食い殺されてしまった。

 あの時、力があれば助けられたのではないかと、鴇は強くなる度に考えてしまう。

 そして、柚子葉に掛けた言葉に後悔するのだ。

 柚子葉は努力もせずに後方で待機しているだけだと、鴇は思っていた。


 しかし、よく思い出すと……柚子葉は最初は妖に立ち向かおうとしていた。

 自分達が強かったから考えられなかったが、旅をして戦闘が得意ではない人々と接するうちに、雑魚妖の攻撃でも普通の人々には脅威になると知った。

 戦闘職業ではない柚子葉はどうだったのだろう。

 鴇視点では避ける価値すらないような、妖の大したことない攻撃でさえ、辛いものだったのではないだろうか。


 柚子葉は最初は戦闘に参加しようとしていたが、すぐに逃げるように後方に下がっていた。

 それは、逃げていただけではなく、距離を取っていただけなのではないか。

 それを鴇は、勝手に“逃げた”と解釈し、柚子葉が倒そうとしていた妖を倒してしまっていた。

 柚子葉は努力していたのだ、それを鴇はやる気がないと決め付けてしまっていた。

 鴇は柚子葉に謝りたかった、しかし、柚子葉はもうこの世にはいない。

 だからその分も世のために敵を倒し平和な世の中にすると、鴇は決めたのだった。

 すべてが終わったら、星の村の柚子葉のお墓に報告しようと鴇は心に誓った。


 鴇がそんな感傷に浸りながら、次の町を目指し歩いていたところ、休憩中の旅人の集団と出会った。


 街道を歩いていると、こういった旅人達とすれ違うことが多々あった。その旅人達と会話を交わし、道中を共にしたりすることも旅の醍醐味であるのだ。

 以前、鴇達は帰路につく傭兵団と町まで一緒にさせてもらったことがあったが、その時は戦い方のコツなど教えてもらい非常に為になった。


 街道で休憩中のその旅人達は四人で街道の脇におり、黒い髪をポニーテールのように結んだ少年を囲むように他の三人がいる。

 歳はみな同年代のようだ。鴇達は、旅人同士の例に倣って彼らに挨拶をした。


「こんにちは、どこまで行くんですか?」

「ああ、こんにちは、僕たちは鬼ヶ島まで行く予定なんです」


 中心にいたポニーテールの少年が笑顔で答えた。


「鬼ヶ島……?」

「はい、何かおかしいですか?」


 鴇達転移組は、みな思わず桃太郎を思い浮かべた。

 戸惑う場をまとめるように夕霧が説明を付け加える。


「鬼ヶ島は鬼領にある島のことです。鬼の貴族である時雨氏の屋敷の四竜殿があります。その鬼ヶ島の最奥に雪羅の住む白銀雪殿(ハクギンセツデン)があります」

「ああー……」


どうやら鴇達が目指す島の名前が鬼ヶ島だったようだ。皆鬼の国へ辿り着くのに必死で島の名称にまで気が回っておらず、夕霧の説明で目の前の少年が自分達と同じ目的地を目指していると理解した。


「貴方たちはどこへ行かれる予定なのですか?」

「ちょっとした旅です。能力を磨くための」


 鴇は誤魔化すように答えた。雪羅を倒す旅をしている事を隠しているわけではないが、同じ目的地というのも彼等がどんな集団か理解しない今、安易に明かしたくなかったのだ。


「みなさんは、鬼ヶ島に何しに行くのですが?」


 瑠璃は話題を変えるように、旅人達に尋ねる。


「時雨氏の時雨水仙(シグレノスイセン)に幼馴染が攫われたので助けに行きたいのです」

「幼馴染が……それは辛いですね」


 瑠璃は心配そうに眉を下げた。

 友人が攫われたなんてとても辛いだろうに、鴇は鬼に対しての怒りを強く感じた。


「そ……そういえば、自己紹介がまだでしたよね、僕は真朱です。彼女が瑠璃で、彼は鴇、そして彼は夕霧です」


 真朱が話に割って入ってきた。そういえば名前をまだ聞いてなかったと鴇はそこで思い出した。


「ああ、僕は桃次郎(トウジロウ)。桃太郎の息子で結構有名なんですけど、知らなかったですか?」

「あっ、すみません無知で……」


 桃次郎は少し感じが悪い奴だった。

 いきなり噛みつかれ、真朱の顔は若干引きつっている。


 桃太郎というのは、鬼との戦で数多の鬼を倒した優秀な兵士なんだそうだ。

 桃次郎はその息子ということで、将来を期待され、巷ではかなり名の通った者らしい。

 今は曙の国の主である輝夜姫の直属の部隊に所属していると桃次郎は己について語った。


 お付きの三人は、白い髪の凛々しい顔立ちの背が高い青年が犬護(ケンゴ)、背が低めで可愛らしい少年は申治(シンジ)、ショートカットで気の強そうな美人の女性は雉歌(チカ)といった。

 犬、猿、雉をお供に鬼ヶ島に行くなんてまるで桃太郎のようだと、鴇は思った。

 瑠璃や真朱も同じことを思ったようで、互いに顔を見合わせた。


 よく見ると、お付きの三人はなんだかげっそりしているような、死んだような目をしていた。視線も定まらず、宙を泳いでおり、身体は左右にゆらゆらと揺れ、まるでゾンビのような印象を覚えた。

 桃次郎だけは饒舌に話すこの集団に、鴇は言い知れぬ不安を覚えた。

 それから話の流れで、次の町まで桃次郎達と一緒に行くこととなったが、正直なところ鴇はあまり関わりたくなかった。しかし、方角も同じで、桃次郎も強く望んだため、次の町までならと承諾せざるをえなかったのだ。

 これも、旅の醍醐味なのだろうかと、鴇は小さく溜息をついた。


 ※


「いや~本当大変ですよ、有名人の親がいると。親といっつも比較されるし、全然そんなことないのに神童呼ばわりされるし、ああでも、同年代のやつよりは剣の腕がいいって言われますね。でもそれは、周りが温くて能力が低いだけですしねぇ」


 桃次郎は瑠璃を気に入ったようで、道中ずっと瑠璃に下らない自慢話を聞かせていた。

 鴇はその光景を不愉快に思ったが、瑠璃が興味津々に聞いているため邪魔をするもの気が引けて、大人しく後ろに下がっていた。

 桃次郎のお供の三人は鴇少し後ろを歩いていた。黙って歩いているわけにもいかず、たまたま手近にいた犬護に話し掛けた。


「犬護さんも鬼ヶ島の時雨水仙に因縁があるのですか?」

「あぁ……いえ、桃次郎さんを手伝っているだけです。……彼には恩があるので」


 犬護は弱々しく微笑んだ。その笑顔が不気味で鴇は少しビクりとしてしまう。


「恩?」

「はい、俺と、申治、雉歌は都へ出稼ぎに行こうと旅をしていましたが、路銀がつき食べ物もなく行き倒れていたところを桃次郎さんに助けられたのです……」

「命の恩人なんすね」

「そうですね、お腹を空かせた俺達に吉備団子を一つくれて、それから毎日働きに応じて吉備団子を貰えるのです。お陰で死ぬことはないので感謝しています」

「えっ、吉備団子一個っすか?」

「え? 一つですけど……」


 奴隷……そんな単語が鴇の頭に過る。

 いや、決めつけるのはいけない、価値観なんて人それぞれなんだ。彼らが納得しているならそれでいいではないかと、鴇は考え直す。


「ただ、今日は妖が出なくて活躍することが出来なくて吉備団子を貰えてないのですよ、だから妖に出て来て欲しいなんて思っちゃいます……なんてね、ふふ」


 犬護にとっては軽い冗談のつもりなんだろうが、鴇にはブラックジョークにしか聞こえなかった。

 幸い桃次郎は先頭で瑠璃に夢中に話している、こちらのことは全く気にしていない。


「これ、良かったらどうぞ」


 鴇は三人に対して、手持ちのおにぎりを分け与えた。

 三人は目を輝かせ飛び付き、各々鴇にお礼を言った。


「ありがとうございます、いいんですかこんなに」

「兄ちゃん、ありがとう、こんな豪華なもの食べるの久しぶりだよ!」

「ありがとう、お腹ぺこぺこだったの、すごく嬉しいわ」


 おにぎりを分け与えただけでこんなに感謝されることになろうとは……、鴇は何故だか涙が出て来た。


 それから鴇は次の町に着くまでの間、犬護達に食料を色々と渡し、その都度感謝された。

 腹が満たされ正気に戻ってきたのか、犬護達の桃次郎を見る目が、だんだん不審者を見るそれに変わってきて、町に着く頃には、三人は憎しみを持った目で桃次郎を見ていた。


「瑠璃さんと別れるのは辛い。どうでしょう、これからも僕達と旅をしませんか?」

「桃次郎さんの足を引っ張ったら申し訳ないしやめておきます、平和な世の中になったらまたお話ししましょう」

「そうですか……、残念ですが、仕方がない。瑠璃さんのためにも自分は自分の目的を果たします」


「うぜー、お前じゃ無理だろ」


 申治がぼそりと悪態をつく。


「そうね、ぼんくら息子の実力じゃ鬼ヶ島でおっ死ぬのが関の山よねー」

「てか、鬼ヶ島に行く前に死ぬだろ」


 雉歌と犬護も桃次郎を見下したような発言を始めた。

 命の恩人と言っていた姿が嘘のようだ。


 桃次郎が手下達の変化に動揺し、固まっている。


 鴇達は巻き込まれる前に、そそくさと彼らに別れを告げて退散した。


 その後、彼らがどうなったのかは知らない。

 ただ、みんなが平等に幸せになれるといいと、鴇は強く願った。




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