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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界へ
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巨大蛙戦

 明かりのない真っ暗闇の中――薄い空気と酷い臭いの立ち込める、劣悪な環境に私は身を置いていた。

 呼吸をしようと息を吸い込むと、生き物の腐ったような臭いが肺の中に入り、不愉快な腐敗臭を吐き出すと、今度は空気を吐きすぎてまた酸素が足りなくなることの繰り返しだった。


 私は、鴇と言い争いをした後、蛙の舌に巻かれ、奴の腹の中へ落とされた。

 飲み込まれた先にあった蛙の妖の胃袋の中は、私が立ち上がっても余裕があるくらい大きな空洞になっているようだった。

 胃酸の臭いか、蛙が食べた生き物の死骸の臭いか、胃袋の中は、強烈で鼻が潰れそうなくらいの異臭が充満していた。


「げほっ、ごほっ、おぇ……」


 吐き気が込み上げてくるが、胃の中でゲロ吐くとか、絵面がシュール過ぎるため、必死に戻しそうになるのを我慢した。

 蛙の胃の壁からは胃酸が絶えず発生しているのがわかる。このままだと胃酸で溶かされてしまうのも時間の問題だろう。


 ならば抵抗するまで――。


 私は、重曹を生成し、辺り一面にばら撒いた。

 重曹は胃酸を弱める効果があると聞いたことがある。

 どの程度効果があるのかわからないが、やらないよりはマシなはずだ。

 胃の壁から出る胃酸には、水で溶かした重曹を霧吹きで吹きかけ、バケツにも同じものを作り、頭から重曹を溶かした水を思い切り被った。

 これで、多少の時間稼ぎにはなったはずだ。

 ひとまず、この胃袋から無事に脱出するための方法を、考えなければならない。


 胃袋は頑丈で殴ったり蹴ったりしたところでビクともしない。物理攻撃以外で中から攻撃するには、おそらく毒が有効だろう。

 胃の中から蛙を毒殺して自力で外にでるか、あとは不本意だけど、異物として私をゲロってもらうしかない。

 あとは、下から出…………うん、それは、止めておこう。


 毒……毒……


 一番簡単なのは、塩素系洗剤と酸性洗剤を混ぜて毒ガス発生させることだ。しかし、この密閉された空間では己へのダメージが大きいことが予想されるため、なるべく避けたい方法だ。

 本当に死にそうになったら一か八かで試すしかないのだけれど……。


 あとは、ワックスで胃の壁を固めるのはどうだろうかと思ったが、すぐに考えを変えた。風通しが皆無のこんな環境じゃワックスは固まらないだろう。熟練度が上がればそういった不利な状況でも固めることが出来るらしいが、今の私にそこまでのスキルはない。

 私の作る洗剤はどれも身体に毒だと予想されるからそれを流し込むのがいいだろう。その中でもガス発生等のリスクの低いものを選ぶ。そう考えるとこれが適当だろう。

 界面活性剤(石油)を私は選択した。


 界面活性剤を選択したら、植物と石油を選ぶことが出来た。

 植物の方は身体に優しそうだから石油の方を選ぶ。私は洗剤生成で界面活性剤を作り、胃の中の彼方此方に大量にばら撒いてやった。


(私を食った恨み、苦しんでしまえ!!)


 ばら撒いている最中に目や口に入るといけないので、頭からバケツを被りながらの作業だ。

 バケツを買っておいて良かったー。

 そんなことを続けていると、胃袋がうねうねと動きだした。

 これは好感触だと思った瞬間、私は悲鳴を上げていた。

 胃袋に身体を思い切り押されたと思うと、次の瞬間景色は明るいものへと変わっていた。ここは洞窟だろうか、天に穴が空いており、そこから木漏れ日が差し込んでいる。

 綺麗だ……。

 その景色をよく見ようと瞳を一回り大きくしたところで、思い切り地面に打ち付けられた。


「痛っ」


 今まで暗い胃の中にいたため、外の明るさに目が慣れず視界がぼやける。

 痛む頭を振りながら目の前を見ると、巨大蛙が胃袋を口の外に吐き出し、苦み悶えていた。

 確か蛙は異物が入ったときに胃袋出して洗うとテレビで観た事がある。妖の蛙でも同じ習性あるようだ。異世界について一つ勉強になった。


 巨大蛙が悶えている今が好機とばかりに、私はバケツの中にアルカリ性洗剤をなみなみと生成した。

 昨日の夜、洗剤生成を色々試したところ、わかったことがいくつかある。

 まず、私は生成する洗剤の濃度を自由に変えることができるようだ。濃度変更実験をして判明したことだが、酸性洗剤はどうやら強力になる程、赤くなるらしい。弱いと逆に黄色に近くなり、緑になると中性洗剤となる。アルカリ性洗剤はそこから段々青っぽくなり、強力なものになると紫色となるとわかった。


 今、私の持っているバケツに入っている洗剤の色は紫だ。

 私はそれを、蛙に向かって思い切りぶち撒けた。

 出っ放しの内蔵にかかり、さらに苦しみだす蛙。

 皮膚がただれ、炎症を起こし、火傷のような症状が出ている。

 洗剤攻撃でかなりのダメージを食らったのか、妖の蛙は、横に倒れ、息も絶えだえといった様子だ。

 そのお陰で頭が下に降りてきた。今なら止めを刺せる――。


 私は即座に、持ち物の箒の柄を真っ二つに折り、折れた部分が鋭く尖った超簡易槍を作成した。

 それを持ち、全速力で駆け、蛙の目と目の間目掛けて突き立てる。

 超簡易槍は、蛙の身が固いのか中々奥まで進んでくれない。

 それを私の全力で、思い切り押し込めてやると、ゆっくりと奥へ沈んでいく感触が手に伝ってきた。

 “イケる”そう思ったとき、巨大蛙の手が私の体を掴んだ。

 瀕死の状態でも、力は凄まじい。私など軽々と引きはがされてしまう。抵抗は不可能。だから私は、掴まれ、空中に浮く瞬間に、簡易槍を思い切り足で押し込んでやった。

 脳をを攻撃され、一瞬で動かなくなり蛙の化け物は絶命した。

 内蔵をだらりとだらしなく出したまま、肉の塊となったのだ。

 私は蛙の手から解放され、地面へ無事着地した。


 生き残った……。

 私の緊張は解け、体から力が一気に抜た。膝から地面へと崩れ落ちる。


「やった、助かった」


 勝利の余韻に浸るように、私は右手で握り拳を作った。


 勝てた……。

 私でもこんな大きな妖に勝てるのだ。

 熱い涙が私の頬を伝った。

 喜びと興奮に打ち震えるも、己の置かれている状況を思い出し、その熱はすぐに冷めていった。


「そういえば、ここってどこなんだろう?」


 さっきまでは余裕がなくて、自分がどこにいるかなんて気にできなかった。

 ここは蛙の巣穴なのか、石で囲まれた空洞で、十メートルくらい高さがある天井には、大きな穴が空いている。そこから太陽の光が差し込み、この中は明るさが保たれていた。

 どうやら巨大蛙は、あの天井の穴から出入りしていたようだ。

 蛙の巨体とジャンプ力でこの高さの縦穴も、軽々と飛んで出ることができたのだろう。


 そう、“蛙の巨体とジャンプ力”ならば……


「………………嘘でしょ」


 私、ここから出られなくね?


 人の何倍もの高さのところにある出入り口。壁をよじ登ることは不可能である。

 蛙と一緒なら出られたかもしれないが、頼みの蛙は横で死体となってしまっている。


「これ、もしかして、詰んだ……?」


 せっかく生き残ったのに、ここから出る方法がないなんて。

 いや、まだ、諦めるのはまだ早い。

 私は、周囲に目を凝らすと、人一人通れるくらいの横穴を見つけることができた。

 ここは、八方塞がりではなかったようだ。一応、進める道があり安心した。


「これは……行くしかないよね」


 この先で何が待っているかわからないし、出口があるのかもわからない。

 でも、進む先が一つしかないなら、迷うことは何もない。

 私は暗闇の中へと一歩を踏み出した。


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