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お掃除クエスト  作者: ちゃー!
異世界2週目
103/107

鴇と桃次郎

 犬、猿、雉を連れ、桃次郎の元へと戻った鴇は鬼畜なご主人へと高らかに宣言した。


「桃次郎、俺と勝負しろ。そして、俺が勝ったらこいつらを解放しろ!」


 指をさされた桃次郎は、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。

 その状態でしばしの沈黙の後、突然宣戦布告をしてきた目の前の男を、眉を吊り上げて睨みつけた。


「で、貴方は誰なのですか?」


 不快感を隠さない表情で、だが口調は丁寧に桃次郎は鴇へ言った。


「俺は灰桜鴇。唐金柚子葉のまあ……仲間みたいなものだ」


 鴇は照れ臭そうに私を“仲間”だと言ってくれた。嬉しいけれどむず痒くもあり、私は人差し指で頬を掻いた。

 すると、肩に小さな重さを感じる。小さくなった渡が私の肩に乗って来たようだ。


「渡、疲れた?」

「そうでござるな」


 ずっと立ちっぱなしだっただろうし、私の肩で休みたいと言うのならば大歓迎だ。


「私の肩でよければどうぞ使って」


 私は視線を渡から桃次郎と鴇へと戻した。

 二人は睨み合い、空間の空気がピリッと張り詰めていた。


「灰桜鴇か……ふむ、いい身体をしていますね」


 桃次郎は鴇を見て一人で感心し始めた後、ニヤリと悪巧みをするように口の両端を持ち上げた。


「その勝負引き受けましょう。あなたの希望は下僕の解放でいいのですか?」

「そうだ」

「わかりました。僕が負けたら解放しましょう。もし僕が勝ったら……どうしましょうかね。まあ、勝った時に考えます」


 桃次郎は自分が負ける可能性なぞ微塵もないという、自信と余裕に満ち溢れていた。

 当然の態度だろう。彼はこの国で渡に次いで強いと言われている男なのだから。私は鴇に目で“大丈夫?”と合図を送った。鴇はそれに無言で頷いた後にニカっと笑った。

 彼もまたチート能力を持った異世界から来た駒なのだ。

 簡単に負けないとは思うが、鴇と桃次郎の強さを目の当たりにしたことがないので、結果の想像ができない。


「勝負は一本取ったら勝ちでいいか?」

「そうですね。任せます」

「唐金、見届けてくれるか?」

「わ、わかった」


 私が審判役を頼まれ、鴇と桃次郎はその場で睨み合い武器を構えた。

 殺し合いをするわけではなさそうで安心したが、それならそれで私が二人の勝敗の正しく判断をできるか心配だ。

 迷ったら渡が判断してくれるかな。

 左肩を見ると渡は退屈そうに私の肩で休んでいた。勝負に一ミリも興味がないようだ。


「私で大丈夫かな……」

「誰が見ても明確に勝負はつくでござるよ。柚子葉が審判役をやる必要もない程に」


 私が独り言を漏らすと、渡が欠伸をしながら答えてくれた。

 渡は鴇の強さを知らない。彼がチート職である武術師であることもループによる引き継ぎでステータスもそこそこ育っているはずだ。

 普通に考えたら無名の鴇と輝夜の近衛兵の桃次郎では後者が勝つと思うだろう。

 そういう意味も含めて私は二人はいい勝負をすると思う。だから僅差で戦いが終わった時の結果の判定を出来る自信がないのだ。


「武器を構えろ」

「はいはい」


 お互い間合いを取りながら、桃次郎は剣を、鴇は槍を構えた。二人は武器をいつ繰り出すべきかはかっている。

 桃次郎のお供の三人は、その様を大人しく固唾を飲んで見つめていた。


「いくぞ」


 勝負は一瞬だった。

 仕掛けたのは鴇。槍を突き出しそれを叩こうとした桃次郎の武器を弾き飛ばし、一直線に吸い込まれるように彼の喉元へ槍先を突き付けた。

 勝負は決した。

 鴇が寸止めをしなければ、桃次郎の喉は無慈悲な鉄の刃で貫かれていただろう。


「と、鴇君の勝ち……?」


 審判として桃次郎の様子を伺いながら私は弱気に宣言した。肩に乗った渡は部下のあっけない敗北に大きな溜め息を吐いている。


「お見事です」


 桃次郎はその場で拍手をしながら鴇を賞賛した。

 プライドが高い桃次郎なら悔しがると思ったのだが、そんな事は微塵もなく戦った相手に対し爽やかな笑顔を見せた。

 普段はいけ好かない桃次郎だが、勝負事には潔いらしい。


「約束はわかっているな」

「勿論です、解放しましょう」


 桃次郎は鴇に近付き握手を求めた。鴇も笑顔でそれに応じる。

 お互いを讃え合うように固く握手を交わしたあと、桃次郎は腰に下げた袋を手に取った。


「鴇さん、ぜひこれを貰って欲しい」

「団子?」

「吉備団子です。我が家系特製のお菓子です。友好の印に受け取ってください」

「あ、ああ……」


 鴇は戸惑いながらも、一つ受け取りそれを口に入れた。

 何度か咀嚼し飲み込んでから「美味いな」苦笑いを含めながら言った。


「美味しかったですか、それは良かった。それでは……」


 桃次郎は鴇から一歩離れ、己より頭一個分背の高い鴇を尊大な目線で見上げた。


「跪け」

「は?」


 桃次郎の言葉に反応するかのように、鴇の身体がその場に崩れ落ちた。抵抗の表情を見せながら、身体を動かせない様は、まるで地面に強力な磁石がありそれに吸い寄せられたかのようだった。

 そんな鴇を満足気に見下ろしながら、桃次郎は宣言した。


「灰桜鴇、お前は今から僕のしもべとなった。僕には今後一切逆らえない」

「……んだと?」


 鴇が勝負に勝ったと思ったら、いつの間にか桃次郎のしもべになっていた。


「ど、どういうこと……?」


 混乱する私に渡が解説してくれた。


「桃次郎は犬、猿、鳥が名前に付く者に限り吉備団子を食べさせれば自由に命令を聞かせることができる。あの男は“鴇”なのでござろう」

「ああ……」


 という事は鴇は桃次郎の部下となってしまったと言う事か。鴇……鳥……何故気が付かなかったのだろう。

 雉のイメージが邪魔をしてしまいそんな簡単な事を警戒できなかった。


「と、桃次郎さん! 鴇君を解放してあげてもらえないですか?」


 焦った私は、桃次郎に頭を下げた。


「柚子葉さん、申し訳ないですがそれは聞けないお願いです。僕を罵ったこの男に僕という存在の素晴らしさを存分に理解してもらわないといけないので」


 桃次郎は鴇から数メートル離れた場所に立ち「動いていいぞ」と、鴇に向かって言った。

 身体が自由になった鴇は、手に持った槍を突き出し桃次郎に襲いかかった。桃次郎は特に警戒するでもなくそれを鼻で笑った。

 鴇が地面を蹴り、最短距離で桃次郎へ向かって飛んだ。

 一瞬とも取れるような速さで桃次郎との間合いを詰めた鴇の槍が、桃次郎の目の前まで迫る。そこで初めて桃次郎は動いた。

 宙を舞う落ち葉のような滑らかな動きで鴇の槍を避け、彼の着物の胸元を掴み、自分より大きい鴇をいとも簡単に投げ飛ばしてしまった。


「なっ……」

「笑止。その程度の戦闘力で僕に勝てると思ったか?」


 桃次郎に負けた鴇は、放心状態で身体の動きは止まり、目だけしばたたかせていた。私も驚いてその場で立ち尽くしてしまった。

 渡の言ったことはこういうことだったのだ。鴇と桃次郎では勝負にならない程に桃次郎の方が強い。

 能力だけ与えられまともに戦いの経験のない私達と、きちんと訓練を積み、数多の実戦を積んだ輝夜の近衛兵の差は歴然と超えられない壁として私達の前に立ち塞がっているのだ。

 明確に差を見せつけられた鴇から闘争心は消えている。ただ地面から主人となった男を憎々しげに見上げるだけだ。


「それにしても……」


 桃次郎は少し離れた場所にいる犬護達を一瞥した。


「僕を含め男が四人か。いささかむさ苦しいな」


 独り言の後、桃次郎が懐から薬袋を出した。そして、薬を一粒鴇の口に放り込んだ。


「何するっ……ぐっ」


 謎の薬を飲まされた鴇は、苦痛に耐えるようにその場に蹲った。


「鴇君!?」


 鴇に駆け寄ろうとしたら、桃次郎に腕を掴まれた。


「桃次郎さん、鴇君に何をしたのですか!?」

「大丈夫です、柚子葉さん。健康に害はありませんから。ほら、もう終わりましたよ」


 少し目を離した隙に、鴇の居た場所には髪の長い女の子が現れた。


「えっと……この子は?」

「いてて、桃次郎、俺に何を飲ませたんだ」


 突如現れた女の子は気の強そうな眼光を持ち顔貌は整っていた。服を見ると先ほどまで鴇が着ていたものを身につけているようだ。

 そう、同じ着物だ……。


「えーっと、もしかして、鴇君?」

「もしかしてって何だよ」

「鴇君、身体……」

「は?」


 鴇は自分の身体を見下ろし状況を把握した。ないはずの物が胸に二つ付いており、身体の作りも細く男の時より柔らかい。


「まさか、俺、女になってる……?」


 鴇の叫び声がその場にこだました。

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