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セカンダリ・ワールド  作者: millay
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石碑の謎 1

青銅色に錆ついた螺旋階段を駆け上がり、俺は追手から死に物狂いで逃げていた。


至る所が破損している雑居ビル。穴の空いた壁から見える景色は夕日が沈みかけて、もうすぐ夜になろうとしている。


視線を壁から後方に向け追手の姿を探すと、先ほどよりも僅かだが距離が縮まっていた。


右手に突剣、左手に鎖を持ち、軽い身のこなしで階段を駆け上がってくる追手。


手の甲には「ミザリー」の一員である証、笑ったピエロのタトゥーが不気味に掘られていた。


ーーー


この世界は通称「セカンダリワールド」と呼ばれている。


ここに居る人々は、一人の例外もなく以前の記憶を失い、誰一人として何故このような場所に居るのかを理解出来ていなかった。


そして、失われた記憶の変わりに、変わりにいくつかの別の記憶が植えられていた。


この世界が「セカンダリワールド」と呼ばれる別世界であること。


ある「条件」を満たせば元の世界に帰れるということ。


そして、その「条件」はこの世界のどこかに隠されているということ。


最初は誰しもが、夢か何かだと疑っていた。


しかし、何日経っても変わらない現実が、次第に彼らを変えていったらしい。


誰が最初に言い出したかは分からないが、怯えた人々は単独行動を避けるようになり、


身近な人間と「組織」を組むようになっていった。


はじめは数多くあった組織もいつしか、目的を持つ大きな組織としていくつかに統合されていった。


俺が所属している組織「アリーシアン」、そして奴が所属しているであろう「ミザリー」は、今も残っている数少ない組織の一つだ。


ーーー


(よりによってミザリーと鉢合わせるとか運悪すぎだろ・・・!)


真司は屋上を目指して階段を駆け上がりながら、自らの状況を整理していた。


ミザリーは、自らの目的を達するためならあらゆる手段を使う凶悪な集団として、セカンダリワールドに名を広めている。


構成員こそ数十人しかおらず、セカンダリワールドに存在する組織の中では最小規模だが、


一人ひとりの能力の高さ、そして何よりもその冷酷さから、あらゆる人間に恐れられている。


(・・・おそらく奴の目的は俺と同じ「アレ」の調査、あの突剣と鎖はターゲットの機動力を奪って拷問するための道具ってところか・・・)


目前に迫った屋上を見上げながら、真司は冷静に分析を進めるが、考えれば考えるほど状況は最悪であった。


一般的に、セカンダリワールドでは大きい組織に所属するほど安全が保たれている。


外部の組織の人間に手を出すということは、すなわちその組織全体に報復されることを意味するからだ。


そして真司の所属するアリーシアンは、セカンダリワールドでは最大規模の組織。


本来であればこれだけで他の人間に狙われる可能性は激減するはずだが、今回ばかりは例外であった。


(相手はミザリー、おそらく躊躇なく俺に襲いかかってくる・・・というより捕まったらまず間違いなく殺される・・・)


ミザリーはある意味、快楽殺人者の集団と言っても過言ではない。


たとえ相手が誰であっても、目的のためなら殺人さえ厭わない。それが彼らのモットーであった。


(後は・・・うまくいくことを願うしかないな・・・!)


真司は階段を登り切ると屋上に入り、素早く出入口から距離を取った。夕日は沈みきり、辺りはすっかり暗くなっている。


20メートルほど離れた場所に立つと、思考を停止させ階段から迫る追手に意識を集中した。


そして待つこと数秒、ゆったりとした動きでミザリーの一員が出入口に姿を現した。


全身黒装束で、両手に凶器を持つその姿は、嫌気がさすほど死を連想させる。フードで顔はよく見えないが、口元は笑っているように見えた。


「袋の・・・ネズミだな、アリーシアンのゴミめ」


やはり俺がアリーシアンだと分かって追ってきていたのか、と真司は考える。先刻の考えどおり、交渉の類いが通用する相手ではないらしい。


「お前の目的はなんだ?なぜ俺を追いかける?」


答えはおおよそ分かっていたが、会話の主導権を握ることで場のペースを掴もうとする。


「そんなことは・・・お前が一番、分かっているだろう?」


「・・・・こいつか?」


真司は背負っていた鞄から、数刻前に見つけたあるものを取り出した。


アリーシアンの仕事として「ある情報」の調査に来ていた真司が、調査中に見つけたものである。


「ふふ・・・そうだ、その石碑だ」


真司の手には、漫画くらいの大きさの石碑が持たれていた。


石碑には文字が掘られており、その内容こそがアリーシアンとミザリーが探していた「ある情報」であった。


「それならこいつはお前にやる。だからこの場は去ってくれ」


交渉が通じる相手ではないと思いながらも、会話を続けることで相手の出方を伺った。


この石碑に書かれている内容は、既に組織に共有している。そのため、相手の手に渡るとしても問題はなかった。


「馬鹿め・・・それが本物だという確証が、どこにある? それに、お前を見逃す理由には、ならない。何故なら、お前を殺した後でも、その石碑は手に入るからだ」


ミザリーの一員らしい回答を聞き、真司は怖れを感じていた。相手は生粋の殺し屋、一筋縄で行かないことはひしひしと伝わってきた。


「俺に手を出すと、組織の人間が黙っていないぞ?」


「我々に・・・そんな脅しは通用しない。貴様らを殺すことなど、造作ない」


そう答えると、追手は不気味なほどゆっくりと間合いを詰め始めた。ジリジリとすり足で、一歩ずつ確実に迫ってくる。


(まずい・・・このままだと本当に殺られる・・・)


素早く左腕の時計を確認しながら、真司は距離を詰めさせないように、相手の動きに合わせて後退する。


だが、後ろに距離はほとんど残されていなかった。このまま後退を続けると今度こそ追いつめられてしまう。


真司は周りに目を配り、打開策を模索する。


(・・・!あれだ、あそこに逃げ込めれば・・・・!)


「隙を見せたなアリーシアンのゴミめ、貴様の命は、今日で終わりだ」


真司が打開策を思いついた瞬間、相手は素早い身のこなしで距離を詰めてきた。


そして、見入るほど華麗な動きで赤銅色に染まった突剣を構える。


(!! しまった!)



ーー時を同じくして、一つの影が雑居ビルに近づいていた。


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