第2話 遭遇
土埃の塊がこちらに向かってくる。だんだん近づくにつれ、はっきりとしてくる。向かってくるのはよく映画や漫画等でみる、皮や金属板を組み合わせた鎧を着た騎士の一群と馬車であった。
「うわぁ。文明的な生活は期待できねぇ」
そう青年はひとりごちると建物の階段を登り始める。向かってくる奴らが自分に対して友好的であると考えるのはいささか楽天的すぎる。ふと見ると、彼らのペースが落ち始めた。ついには、建物から70メートルぐらいのところで馬車を囲むように止まった。馬車は4頭立てで緑色で箱形であった。騎士たちの一部が馬から降り、馬車の中と話をしている。話が終わると、騎士の一部は建物の周りを周回する。馬車から3人が降りてくる。女2人と男が1人であった。女は2人共歳は10代後半~20代前半に見えた。男の方は20代後半から30代前半に見えた。女の1人は皮の鎧を着ており、1メートルほどの剣のようなものを持っていた。他の2人は平服で手ぶらに見えた。
騎士たちが降りてくる3人に一礼をするため、おそらく3人の社会的な身分は彼ら騎士より上なのだろうと推測できる。そんな光景を見ていると、騎士の一人と目が合ってしまった。騎士が自分を指さしながら周りに叫ぶ。
"やばいかもしれない"
青年はそう思った。騎士たちがわらわらとこちらへ向かってくる。ふと3人に目を振ると、男が菜箸みたいな棒をこちらに向けていた。
"ここは魔法がある世界か"
騎士たちは階段の前に固まっている。登ってくる気配は無いようだ。
「魔法で始末する気か?」
そう思いながら覚悟を決める。消火器の位置を確認する。火炎ならこれでなんとかなるかもしれないと思っていると、声が聞こえた。「聞こえるかな?」
青年は、聞こえてきた日本語の方向を確認するために首を回す。
「失敗したのかなぁ?」
「あなたが作った魔法で成功したものなんてあったかしら?」
「そりゃあないだろ」
「そのようなことより、彼の者と如何に意思疎通を図るかが先決かと」
どうやら三人が会話しているようであった。男が話を続ける。
「聞こえているかわからないけど。まぁ言っておくか。怖がらなくていい。私達は怪しいものではない。君を保護しに来ただけだ。聞こえているならば手を振ってみてくれ」
青年は聞こえたとおりに手を振ってみる。
「聞こえたみたいだぞ。今回も成功したみたいだぞ?」
「"今回は"の間違いじゃないのかしら?」
「そんなことはどうでもいいとして、降りてきてくれるかな?」
「どうでもいいってことはないでしょ!いっつも私達に被害が及んでいるのよ。この前だって魔法で気候を操るとか言って大変な目に・・・・・」
いささか心配ではあるが、階段を降りていく。すると、階段下にいた騎士たちも下がって行くと同時に、三人までの道を作るように整列していく。青年はその間を一応警戒しながら三人の元へ進んでいく。
三人の前に着くと、男が、
「本日は誠にお日柄も良い中、我が国、オーレウス・カーディオ連合王国にようこそいらっしゃいました。私はアルカディウス・フォン・ペンブロークと申します。親しい者はアルと呼びます。こちらの方は、我が国の第1王女、モニカ・オーレウシア・カーディオ。側に使えておりますのが、ここにおります第1近衛騎士団第二隊隊長の、ジャンヌ・ド・ロイテルでございます」
と、それぞれの紹介をしてくれた。青年も、一応、自己紹介をすべきと思ったため、
「私は、神奈川医科大学4年、清田 貴明と申します」
よくありそうな異世界転移ファンタジー物、しかし、飛ばされたのは医学生だったのでした。