第10話 演習の見学
予告通りに作るって難しいですね。
石塀を溶かすほどの光が出せることが判明した貴明は、アルに魔術について訊いてみた。
アルは、「光魔術ってのは普通、迷宮なんかの暗い場所や夜襲に対抗するときに使ったりする、補助系の魔術とされてきていたんだ。事実、光魔術による攻撃を記された文献なんてのは見つかったことはない。だから、その光は実は火魔術なんじゃないかとも思うが石を溶かす程の火魔法ってのも聞いたことがないな……」
と、悩みながら答えた。
アルと共にこの魔術についての仮説を立てていると、演習の時間になったようで、騎士がアルを呼びに来た。
貴明はモニカとともに、アパートの階段を登り、高い位置から演習を見学することにした。
どうやら今回の演習の目的は、魔素をアルに集め、歩兵の前に土壁を作り騎兵の突撃を防ぐと言う、防御中心の演習とのことであった。
そのため、今回の騎士たちは、防御側の歩兵役と、攻撃側の騎兵役に分かれていた。
ジャンヌは、騎兵と歩兵、交互に指揮をするとのことであった。
騎兵の馬は、昨日の天幕や食料を運んでいた、荷馬車の馬たちであった。
何故荷馬車の馬にしたのかを貴明が聞くと、
モニカは、「騎兵は馬と人の両方に金属の鎧を着せているから移動速度が遅いわけですの。ただ、打たれ強さと打撃力はとても厄介ですわ。移動速度が荷馬車の馬と変わらない程度ですので演習の相手にはうってつけでしてよ」と、返された。
貴明は、この国に騎兵はどのくらい居るのかモニカに尋ねると、およそ、軽騎兵で百五十騎、騎兵で八十騎、重装騎兵で三十騎ということであった。そのうち、騎士団の騎兵は、軽騎兵の三分の二に当たる百騎、騎兵は約六割の五十騎、重装騎兵は三十騎全てとのことであった。
貴明は、意外と騎兵が少ないと思ったので理由を聞くと、一言で財政難との返事を頂いた。
騎兵の維持費はとても高いそうで、数を増やそうと思えば、増税しか無いとのことであったが、これ以上の増税は国力を低下させると思われるため、近隣諸国の騎兵数を考慮し、国防上最低限の数にせざるを得ないとのことであった。
騎兵についてモニカと話していると、どうやら演習が始まった様だ。
馬の蹄の音が聞こえてきた。歩兵たちが演習用の槍で槍衾を形成する。
魔術師たちは五人ぐらいのグループに別れ、横一列に並んでいた。
歩兵との距離は五十から百メートル程であった。
騎兵と歩兵との距離が近づいていく。四、五百メートルは離れていたであろう距離がもう百メートルほどしか無い。すると、歩兵の前の地面が少し盛り上がってきた。
歩兵との距離が五十メートル、盛り上がった地面が膝の高さぐらいまでになる。
三十メートル、地面は胸当たりまで高くなる。
ここで、騎兵は手綱を引き、制動をかけると同時に、左右に分散し、ターンし、元の位置へ戻っていく。
貴明は、何かいまいちだなと思いながら、演習を見ていた。
この光景が数回繰り返されているなか、貴明は、モニカに同じことしてみたいと言った。
モニカは、「王国主席魔術師はいけるかもしれないけど、他の魔術師たちの消耗も気になるので…」と消極的だった。
「主席魔術師って?」と、貴明が尋ねる。
「アルカディウスの事よ」とモニカが答える。
「どんぐらいすごいの?」貴明が尋ねる。
「この国で一番すごい魔術師よ。周辺諸国でもあのレベルはそう居ないわね」モニカが答える。
貴明は、自分一人と、騎兵が居ればいいと言って頼み込んだ。
モニカがそれならば、と了承したので、参加できることになった。
歩兵の代わりに、旗を立て、仮想のラインを構築する。
騎兵が突撃を開始した。
貴明はイメージを開始する。競馬の障害競走の障害物のイメージと、津波のように、泥の波が急速に迫るイメージをした。
イメージどおりに土が盛り上がった。しかし、タイミングが悪く、騎兵が通りすぎた後の場所で起こってしまった。
貴明は、タイミングを考え、もう一度イメージをする。
騎兵との距離は三百メートルはある。
すると、目の前に出現し、迫って来ようとする土の山に一部の騎兵が制動をかける。
残りの騎兵は、それに合わせ乗り越えようとする。
三回目、騎兵との距離は百メートル程度となった。
今回は土の柱がせり上がるイメージをした。
せり上がってくる土の柱に、多くの馬は驚き、前脚を上げ、止まろうとした。
数騎の馬が突破し、こちらに向かってくる。
貴明は、ラインの目前に泥沼をイメージした。
これには、残りの全てが泥沼にかかり、勢いを削がれる形となった。
これなら歩兵のいいカモだろうと思ったところで終了の合図がなった。
演習が終わった。貴明の能力は異常であった。
アルと二人で魔術と魔法の評価を行っていく貴明。
そして、この国の改革に取り組もうとする貴明。
しかし、立ちふさがる壁があった。
そして、出会いもあった。
次回、第11話 演習後
この通りに書けるといいなぁ