おじいちゃんに似てる人とモブの三人組
まだまだ楽は出来ません。
三分後、芋虫の唾液やら体液やらでベトベトになったジュリが戻ってきた。
こちらに来るや否や神影の顔面を蹴飛ばし風呂場に走っていった。
「絶対見ないでねっ!」と忠告つきだ。
別に見るつもりは無いので適当にそこら辺にあった火打ち石を使い火をおこしお茶を淹れる。
ご都合主義といって良いのか悪いのか知らないがこの世界にお茶があることはかなり嬉しかった。
因みにお茶っ葉をスライムにやると喜んで食べていた。
「これでアイツが居なければなぁ……」
呟きながらポニーテールのワガママクソ王女(仮)を思い出す。
アイツが繰り出した蹴りを想像するだけで震えが止まらない。
「アイツって誰の事ですかぁ?」
「そりゃ勿論クソ生意気バカ王女の……こ…と…」
目の前には当人が般若の形相で立っていた。
「えっと……その……k」
「年下の癖に…死ねっ」
「ぐふっ!」
本日二回目の蹴りである。
そして転生して三度目のブラックアウトであった。
「うっ…、いつつ」
蹴られた箇所が痛む。
意識を覚醒させるとそこは白を基調とした部屋で丁寧に布団もかけられている。
そして一言……
「知らない天井だ」
まさか二回も言うとは思わなかった。
見渡せば銀食器のような骨董品が周りを埋め尽くしていた。
「やっとお目覚めかい。さっきは娘がお世話になったね」
低くドスの効いた声。
本人が自覚なくても怖いぞこの低音波。
声をした方を向くと白のタキシードに身を包んだ黒い肌の白髪のおじさんがいた。
第一印象:俺のおじいちゃんにクソ似ている。
「おはよう、おじいちゃん」
あっ、ヤベっ!間違えた……。
「ガハハ!そんなに似ていたかお前さんのじいさんと!」
「はあ」
「まぁ、そんな畏まるな。別にワシの娘の乳首を捻ったくらいで怒りはせんぞ!むしろ喜ばしいくらいだ!ガハハ!」
はずかしぃぃぃぃぃっっ!!
何故親にばらすんだあの生意気バカ王女はぁぁぁぁっっ!!
「何顔を赤くしておる。恥ずかしい事ではないぞ!男はそれくらいが丁度良い!ガハハ!」
らぁぁぁぁぁめぇぇぇぇぇぇぇっっっっっ!!
神影の渾身の叫びがトランス城の中に轟いた。
そりゃ、年頃の少女が自分の黒歴史を公衆の前で話された時の叫びに似ていたという。
「ううう……ぐす…」
精神的にヤバいダメージをおった神影は白髪のじいさんに担がれていた。
この人はガルーラ・ズドゥングギルというらしい。
とても気さくで楽しい人だけどちょっと苦手意識を持つ神影だった。
「ガルーラさんは何故俺の所に居たんですか?」
「ガハハ!お前さん面白いな!いやぁ、ジュリを認めさせた男をこの目で見たいとおもってな!とんだチビっこだったけど」
「痛いところつかないでください。」
背がちっちゃい事は認めるけどそんなハキハキと言われると悲しくなる。
「一瞬女子と間違えたわい!ガハハ!」
それ前の世界でも言われなかったよ!
「おっと邪魔が入ったな!ガハハ!」
暢気に笑うガルーラを見る。
目の前には汚い甲冑を着込んだ三人の男たちがいた。
男たちはガルーラの声に気付きナイフを取り出す。
「はっ!丁寧に刃物つきかい!ガハハ!」
「何だコイツ」
「やっちまおうぜ!」
「そうだな」
それを合図にガルーラを囲うように回り込む。
一目で分かる。
″手慣れ″だ。
人なんてナイフで刺せば死ぬ。
そんな眼を持っていた。
コイツらは何回も同じ手口で人を殺してきたに違いない。
「ちょっと揺れるが吐くなよ!」
ガルーラはそう言うと体制を低くする。
迅速
ガルーラもこのスキルを持っていることが直感で教えてくれる。
刹那のうちに一人の男の目の前にいき、そのまま拳を振り抜く。
あまりの速さに男は驚愕するも何とかナイフで防ぐが数メートルふっ飛ばした。
しかしガルーラもナイフのせいで拳を負傷する。
「ぐぅ……」
「大丈夫ですかっ!」
「ガハハ!このくらい何てことねぇさ!それより増援を呼んできてくれこの数は流石に厳しい」
「わかりました!」
神影はガルーラと反対方向に走り出す。
迅速
ガルーラもまた神影がそれを取得していることに気付いたのだろう。
ふっ、と笑う。
だが、現実は甘くはない。
男の一人が回り込みナイフを振りかざす。
神影は間一髪避けると立ち上がったガルーラの背に彼自身の背をくっつけた。
行き場のないこと、頼れるのはお前だけだということをその行動が意味していた。
「ガハハ!お前さんがどれだけ出来るか見物するかの!」
「言ってくれるね!年寄りだからってくたばるなよ!」
「ガハハ!言ってくれるねぇ!」
ちょっとした会話をして余裕ぶりを見せつけたことに腹を立てた男がナイフを捨て腰にかけてあった剣を鞘から抜いて神影のほうへと走ってくる。
初めての戦闘に前の世界で聞いていたロックを思いだし心を落ち着かせる。
「いくぜ!」
「ああ!」
それを合図に神影とガルーラは走り出す。
対するは神影に二人ガルーラに一人である。
多分弱いやつを先に殺そうとしているのは分かる。
しかし、それが大きな誤算だということに気づいてはいなかった。
「死ねぇ!」
「ぶっ殺す!」
剣を突き立てる男たち。
以後コイツらを男A、男Bとしよう。
「悪いがお前らはモブ決定だ!」
「何わからねぇこと言ってる!」
「こういうことさっ!」
最初に攻撃してきた男Aの横の凪ぎ払いをしゃがんでかわすと、そのままアイアンクロー。
視界の遮られた男Aから剣を引ったくるとそのまま喉に押し付け横に払う。
男Aの血が神影の服を赤く染める。
その間わずか二秒。
驚愕に満ち隙がありありの男Bの腹に潜り込むとそのまま心臓部に剣を突き立てそのまま力の限り押し付ける。
ザクッと勢いよく入った剣は男Bの心臓を無惨に切り裂く。
そして悲鳴も出せずに倒れこんだ。
いまだに有り得ない程の鮮血が白い廊下を赤く染めている。
「ガハハ!昨日買ったタキシードが台無しだ!」
「大丈夫だったんですね、ガルーラさん」
「それはこっちのセリフだ!」
「それもそうだ!ハハハ!」
「ガハハ」
血に染まった廊下に二人の笑い声が響いていた。
初めての戦闘回はどうだったでしょうか?
これからも宜しくお願いします。