トリップと無能
勇者様。その言葉だけが頭に響いていた。
ふざけて居るのか知らないが彼が目覚めると目の前には青を基調としたドレスを着込んだ少女が立っていた。
金髪に碧眼、絵に描いたかの様な整った顔立ちだ。
「早速ですが、こちらに来て頂きますか?」
そう言うと手招きをする。彼らは言われるがままに着いていった。
「突然ですが、あなた達はこの世界を救って貰うためにここに来てもらいました。」
信じたくはないが、認めなければならない。
ここに来る間に見た窓から見たことのない生物が飛んでいたのが目に入ったのだ。
「それは何故?」
仁が聞く。
さっき彼にガンを飛ばしていた時には想像出来ないほど穏やかな口調だ。
「この世界はユグドラシルと呼ばれる大木が魔力をコントロールしてバランスを維持しています。」
「あのユグドラシルとは?」
仁のハーレム一味と思われるショートカットの活発そうな少女は金髪少女に質問する。
名前は確か今村美由紀だったのを思い出す。
陸上部でその腕……いや、その足は確かで一年にして全国大会にでたと聞く。
そのせいか太股や腹まわりは引き締まりいかにも女性という輝きを引き出している。
「ユグドラシルというのはこの世界の中心。魔力源でもあります。ほらこのように……」
そう言うとパチンと指を弾く。すると指の周りに電気を帯びてバチバチと轟く。
「すげー…」
彼は思わず声をあげていた。
すると仁に睨まれる。
「……っ」
彼には逆らえない。
そういう事にしといている。
実際は片手で一捻りだが、また落ちこぼれ、恥、人殺し、そう呼ばれるのが嫌でずっと耐えてきた。
だけど、変わらなかった。落ちこぼれ、恥、人殺し、このすべてを罵られた。
死のうとも思った。
だけど死ぬのは怖い。
皆、そうだろう。
だから、耐えてきた。
この状況が変わると信じて……
「そう言えば皆さんの名前を聞いていませんでしたね。私はサクリ・シューカ。この国の第一王女をしています」
丁寧にドレスの裾をつまみ上げる。
「俺は植村仁。宜しく」
イケメンスマイルを振り撒く。
しかし王女は何の反応もしなかった。
「今村美由紀だよ。よろしくねっ」
「…紺野雫」
「牧野優。宜しく」
「えっと……や、屋島要ですっ!」
「三村良子宜しくね」
「ミユキ様にシズク様にユウ様にカナメ様に良子様ですね。これから宜しくお願いします」
「「「「「はい(ん…)」」」」」
返事が妙に揃った。
仁はというと……
「な、何故俺の色仕掛けがぁ……」
心に傷を負ったようだ。
ざまぁ。
「貴方は名を何と言いますか?」
「ふぁ…?俺ですか?」
「あなた以外誰が居ますの?」
「あ、ああ。俺は櫻木神影っていう。宜しく」
彼の名前は櫻木神影と言った。
「早速ですが、あなた方は何らかの加護を受けているはずです。そこで『我の力を見せよ』と唱えてください。きっと『勇者』の加護があるはずです。あったら声をかけてください」
突然のことで少し慌てるが直ぐに気持ちを入れ替え皆それぞれ唱える。
「我の力を見せよ」
神影も言った。
櫻木神影
AT:100(+???)(×???)
DF:100(+???)(×???)
SP:100(+???)(×???)
MP:100(+???)(×???)
スキル
???
???
???
称号
封印サレシ者
何処と無く平均的な気がするが……
それに加護なんてものも見付からなかった。
「あっ、あ、あった!」
最初に声をあげたのは要だった。
そこからどんどん声があがっていき、最終的には神影だけになった。
「貴方はどうでした?」
ニコッと王女スマイル。
「無かったです……」
「そうですか」
冷たく言い放たれた冷たく感情の篭らない声。
そしてこの世界で二回目の指パッチン。
「……っ!」
刹那、叫び声もあげられずに突如現れた魔方陣に神影は吸い込まれた。
「無能は要りませんから」
慈悲のない言葉が仁達に恐怖をあたえていた。