第96話 私を助けてくれる人の前に現れた神
「やれやれ、もうまもなくクエストの初期化が完了するのにまた邪魔をしにきたのか、春日井真澄。しかも今度はプレイヤーキルマイスターまで連れて」
礼拝堂の中はずいぶんと広く、その中でたった2人だけがそこにいた。エミリーとRDHだ。よく見ると礼拝堂の隅々に魔方陣が書き込まれ、その魔方陣のちょうど中央にエミリーはいた。虚ろな表情で目に生気も無く、呼吸をしているのかどうかも分らないほど静かに座っていた。
RDHは居住まいを正し、一拍置いてこちらの方を向き言ってきた。
「それで? 肝心のエミリーを救う方法は見つかったのか?」
改めて最初の事実を突きつけられる。私はヘンドリュック自由街の時と同じように固まってしまった。
そうなのだ、肝心のエミリーを元の状態に戻す方法はまったく見つかっていないのだ。RDHを倒せばそれでいいってノリでここまで来たがやつを倒せたとしてもなんの解決にもならないのだ。
私が固まっていると祥君が助け舟を出してくれた。
「オレ達はエクストラクエストを受注中だ。このクエストどおり彼女を指定の場所まで連れ帰ればエクストラクエストは達成される。即ち、彼女が復元される可能性があるってことだ」
「やれやれ、話にならん。確かにオレには【クエスト作成】はできても【エキストラクエスト作成】はできん。どこぞの穏健派の神がそのようなエキストラクエストを作ったのだろうが結果は変わらん。我々に彼女を元に戻す方法は無い。ならば冥竜王討伐のクエスト自体を初期化するしかないではないか」
「そんなことをしたらエミリーの記憶はどうなるのよ」
「むろん消失する。それどころか、このエクシード王国の全ての人間の記憶の一部も改竄される」
そう断言したがRDHの声は暗い。さらに自嘲気味に言ってきた。
「それだけなら許容の範囲内かもしれんが彼女は聡い。もういちど真理に触れて壊れる可能性まである。オレのやっていることも対処療法にすぎんのかもしれん」
「だったら、まず私達のエキストラクエストを試させてよ! 全ての手段を使って駄目だったらおとなしくあなたにエミリーを引き渡すわよ」
私は両者が納得できる中間案を提出した。RDHもエミリーを救いたいのだ。それはこれまでのやりとりで充分分かる。
確かに奴の言うとおりエキストラクエストをクリアしてもエミリーが元に戻る可能性は50パーセントぐらいだ。ならば、もっとも成功率の高いこのプランにのるのではないかと思ったのだ。
「生憎だが彼女の状態は重篤だ。そのような茶番につきあっている時間はない。クエストの初期化を行い、彼女の生存を優先する」
「なら、オレ達はオレ達でエキストラクエストを遂行させてもらう」
祥君は交渉が決裂したと考えたのか、まだ話が終わってないのに力づくで話を進めた。
「ふん、神殺しのショウ。敵対するなら我が友、【停滞と怠慢の神】アスクライブの仇とらせてもらおうか」
RDHはそう切り返すとさらに思いついたように言ってきた。
「それに考えようによっては好都合か。ショウ、お前を殺し冥竜王を頂く。そのほうが矛盾が少なくクエストの初期化が実行できる」
結果、両者引くこともなく戦闘は開始された。
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