第948話 コンビニに行くより簡単なレベルアップの方法は? ㉟
「そうして、トップとの差は徐々に開いていった。当然の帰結じゃ。攻めに入った者と守りに入った者。どちらが優れるているかなど、競わずとも分かる。こうして、蝶よ花よと持ち上げられとった、吾輩達はあっという間に先頭集団から脱落した。じゃが、吾輩らはこのゲームを捨てきれんかった。青春の全てをかけたアバターを捨てれるわけがない。残ったのはトップにならなくてもいいという諦め。いや、諦めよう、諦めるしかないと自分を洗脳する自意識。妄執のような拘りもなく、ただただ惰性でログインを継続していく生活。惨めなもんじゃよ。本当に自分でやっておって惨めなのがよく分かった。そうして、時折、発作のように諦めきれない燻りが己の魂を焼く。まさに地獄じゃよ」
そう語る黒嵯峨の表情は苦しみに満ちていた。
おそらく、今も、その燻りは残っているのだろう。
「自意識の牢獄に囚われた吾輩を救ってくれたのは時間だけじゃった。少し間隔が麻痺してきた頃、ログイン時間を減らしてみた。最初は回数を絞ることでログイン時間を削っていった。週7回を週6回という風に。次にリアルの中で無理矢理、予定を入れてみた。バイトをしたのも、この頃が初めてじゃったのぉ〜ゲームに比べて手取りが酷く少ないことにショックを受けたもんじゃ。リアルの人間はなんとまあ、非効率的な金稼ぎをしとるもんだと驚いた。ただ、この方法は正解じゃった。自分を生活に疲弊させることによって、この世界を遠ざけることができた。なにせ現実の肉体は疲れを感じるからのぉ」
苦笑いを交え、まるで自分の罪を告白するように黒嵯峨は続ける。
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