第91話 私を助けてくれる人の執念
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勝った。
この長時間による戦闘で自分も疲弊していたのだろう。相手の不用意な飛び出しに対しこちらもほぼ反射的に技を返すとそれをまんまと読まれた。
【三段斬り改】では直撃を受けても絶命しないというとっさの判断だろう。
肉を斬らせて骨を断つ、剣士の間ではよく知られた格言だが剣王である自分を相手に行うものなどここ10数年いなかった。
なんという覚悟か。そして、その後の【翠嵐劫火炎熱斬】、自分すら燃やす大火力の一撃に私の身体は恐れをなしたのかなんの反応もできずに直撃を喰らってしまった。
死ぬ。そう確信したが剣王である自分が一介の剣士に覚悟の差を見せつけられて倒れてもいいのだろうか。
目の前の女剣士は私の一撃を耐え切った。ならば私も彼女の一撃を耐え切らねば剣王を名乗ることなどできないのではないか。そう思うと不思議と立ち上がれ、もはや無意識のうちに【秋霜烈風撃】を放っていた。
彼女とて限界だったのだろう。まるで化け物を見るような目で防御もできず、【秋霜烈風撃】を喰らった。
しかし、すさまじい相手だった。さすがは救国の英雄のパーティメンパー。
いそぎ回復し、姫様の下へ駆けつけねば。まだ、ショウ殿と真澄殿がおられるのだ。いや、まずは寝転びならがこちらを見ている紅メガネの男か。一連の戦闘を観察し目の前で仲間がやられたのに顔色一つ変えずこちらを見ている。
私が鍛え上げた屈強のエクシード兵をたったの一撃で倒した技量といい、よほど自身があるのか。
しかし、私が悠々と寝ている紅メガネの男に一撃を入れようとした瞬間、信じられないことが起きた。私の身体が発光し、光が収まると私の身体から先の戦闘でできたあらゆる傷が癒えていたのだ。
そして、私が倒したあの天都笠渚。彼女も無傷の状態で立っていた。
「馬鹿な!? なぜ生きている!」
私は思わず彼女に問うていた。そしてそのカラクリが分った。
「私の体の傷が癒えている!? いや、戦闘前の状態にもどったのか!?」
「これが【哀れなる決闘者の牢獄】の効果だ。牢獄シリーズの傑作のひとつだ。使用者は対象一名を選択し、決闘を行う。そして決闘に敗北した瞬間、効果が発動する。敗者は【リトライ】して決闘をもういちど行うか、そのまま【サレンダー】し負けを認めるか選択することができるんだ。そして、【リトライ】を選んだ瞬間、カードを使用した最初の状態にまで戻る。つまり、自分が諦めない限りエンドレスに戦いを継続することができるんだ」
「つまり、私はあなたの意志を挫くまで倒し続けなければならないということですか」
「そう、精神の消耗戦だ。我慢比べって言ってもいい。そして、私の意志を挫くことができる人間などこの地球上には存在しない」
「馬鹿げている。どうしてそこまでする必要があるのです。私達は実力が拮抗している。そして、私も引かない。だとすれば何度殺しあうことになることか」
「もちろん、エミリーのためだ。最初に言ったはずだ。ついでに言うと心の中で【サレンダー】と唱えるか、一定距離を離れればこのカードの効果は消失する」
天都笠は事も無げにカードの弱点を述べてくる。だったら一次撤退すればこの茶番から逃れられるのか。いや、それでは彼女達が姫様の下にたどり着いてしまう。
【サレンダー】を選択し、その後、彼女を後ろから刺すか。いや、ここまで死力を尽くして戦っている彼女に対しそのような方法はあまりに卑怯だ。
そもそも自分がここで壁となることが本当に姫様のためになるのか。憔悴した王から放たれた王命は本当に正しいと呼べるものだったのか。
「さて、それでは二度目の決闘を始めようか。一度、【翠嵐劫火炎熱斬】を使ったからな。次はもっとうまく制御できるはずだ」
そう言うと彼女の身体がまたも炎に包まれる。またあの捨て身の技を使うつもりか。なにがそこまで彼女を駆り立てるのか。いや、姫様のためか。だとすれば私は…
彼女がなんの迷いもなく自らの身体を削り仕掛けてくるのに対し、私の剣は迷いに満ちていた。
読んで頂きありがとうございました。本日、最新話を確認にきて下さった皆様、投稿おそくなり申し訳ありませんでした。明日の投稿時間も未定です。今から頑張って書こうと思います。ブックマーク、感想、評価、メッセージなどあればなんでもお待ちしております。軽い気持ちでポチっとお願いします。




