第882話 皇帝の器②
「さて、雨佐美。我がなぜ貴重な【声望値】を使ってまで、お前を蘇らせたか分かっているな?」
蘇った雨佐美は臣下の礼をとりながらも、黙って我孫子を見上げている。
「臣下の身でありながら、我の決定に口を挟んだからだ。その罪、万死に値する」
怒気だけで、聞く者を悶死させそうな勢いだ。
なるほど、真の王者の発言とはこういうものか。
全く関係のない私ですら、なぜか罪悪感が湧いてくる。
「何か申し開きはあるか、雨佐美?」
我孫子は鋭い口調で、雨佐美の目を真っ直ぐ見つめ、詰問する。
雨佐美は答えることはせず、黙って首を左右に振る。
我孫子が発言する前に【強制転移】を発動。
おそらく、私の死という結果を持って、我孫子から事後承諾を得るつもりだったのだろう。
ところが、私を殺しきることはできず、あまつさえ仕掛けた自分の方が死んでしまった。
こんな結果では、何を言っても、評価を下げるだけ。
できる事といえば、黙って我孫子の裁きを受け入れるだけだ。
「故に我、自ら裁きを下そうと蘇生させてみれば、いつもの辛気臭い顔が消えておる。蒙が啓けたか、雨佐美…これも春日井の仕業か…」
我孫子はじろりと私を一瞥すると瞳を閉じ、僅かに思案する。
「臣下の不明は君主の不始末。ここで雨佐美を罰するのはあまりに無粋か…よい、下がれ、雨佐美。春日井への敗北を以ってお前への罰としよう。道が拓けたのなら、迷わず進め。振り返っていては機会を逃す。全ての結果はお前の決断次第だ。我の力が必要ならいつでも貸してやろう。貴様の新たな道に星々の導きがあらんことを…」
出てきた答えは意外なものだった。
未だどこか迷いのある雨佐美を後押しするような、送り出すための温かな言葉だった。
雨佐美の目を見ただけで、内面の変化を読み取った。
そうして、先程までの怒りを全て飲み込み、即座に決断を変えてきた。
並の器量で、できることではない。
なるほど、これが【皇帝】か。
嵐のような情動とそれを完全に抑えこむことができる精神力。
これが今から私が戦う相手なのか…
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