第874話 雨佐美貞継の戦う理由52
その時だった。
俺の身体がふわりと宙を舞う。
かなりの衝撃があったはずなのに痛みがない。
人間は本当のショックを受けると痛みなど感じないらしい。
俺のいた位置に多画城が立っている。
そこは俺のいた場所だ。
俺が死ぬべき場所だ。
彼女はうっすらと笑っていた。
次の瞬間、多画城に斧槍の一撃が放たれる。
一切の手加減なき、真性の斬撃。
重く深く、角竜すら一撃で屠れる威力の一撃。
多画城は防御すらできず、まともに喰らった。
回避特化の軽装甲で固めている彼女には物理防御力など殆どない。
避ける、躱す、捌く、が彼女の防御法だ。
当たれば終わる。
故に強制防御を選択させられる【身代わり】は最も不向きなのに。
それは多画城が一番よく分かっているはずなのに。
彼女の身体が光の粒子となって消えていく。
消え去る一瞬の間、彼女の口元が動いた。
ただ、声を出す器官が潰されていて、何と言ったか聞き取れなかった。
多画城は何を言いたかったのか。
そこから先はよく覚えていない。
不完全であったものの、任務を完了した斧手良に戦闘継続の意思はなかった。
おそらく、多画城の再ログイン場所を押さえているのだろう。
こちらから突っかかりさえしなければ、むしろ向こうの方こそ、戦闘を避けたいような様子だった。
金にならない戦闘などやりたくないのだろう。
徹頭徹尾、プロフェッショナルに徹している。
俺達も多画城救出のために戦闘をしていた。
その多画城が死んでしまった以上、これ以上の戦闘は無意味だった。
仲間の仇を討つ。
府天間はそんな意志に満ち満ちていたが、俺にはそんな殊勝な気持ちはなかった。
あるのは虚無感。
もはや、指一本動かすのすら面倒くさかった。
俺がそんな状態では、府天間も動くことなど、できなかった。
どのみち、逃げに徹した斧手良を狩るなど、今の消耗した俺達には不可能だっただろうが。
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