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第863話 雨佐美禎継の戦う理由㊶

 斧手良が猛烈な勢いで突っ込んでくる。

 自らの重さをもろともせず、純粋脚力を活かした突撃。 

 まるで重機関車だ。

 狙いはこの俺。

 数を削りたいのだろう。

 

 「最初に頭を潰すのは戦の定石。特にお前のような手癖の悪い魔術士は最初に殺すと決めている」


 私怨かよ。

 だが、俺に為す術はない。

 視線を切った訳でもないのに、目で追うのがやっとだ。気付いたらもう目の前にいた。

 重いのに早い。先程までと動きが別格だ。

 ほとんど、反射だけで右前方へ跳ぶ。

 斧手良は突進の勢いを殺さず、そのまま斬撃に乗せて振り下ろしてきた。

 スキルでもない通常攻撃のはずだが、威力が尋常ではない。

 周辺の構造物が紙切れのように吹っ飛ぶ。

 回避できていなければ、一撃死だっただろう。

 とっさに長得物の戦術定石を思い出し、死角に回避したが、それだけだ。

 俺に二の手はない。

 そもそも達人者級の殺傷圏内にいるのだ。

 それも近接戦闘の。

 この距離を作られてしまっては、後衛魔法士にできる事など殆どない。

 そう分析を完了したところで第二撃が迫る。

 ここまでか…

 回避も防御もできず、咄嗟に瞳を閉じて最後の瞬間に備える。

 しかし、いつまでたってもその瞬間がやってこない。

 薄目を開けて、確認すると多画城が斧手良の一撃を受け止めていた。

 あいつの防御力もそう高くはないだろうに。

 

 「ターゲットが自ら、死にに来たか!? また、面妖な…」


 「この中で、曲がりなりにも前衛を務める事ができるのは私だけ…なら、これは当然の帰結よ」


 「だからといって、魔法を使えぬ魔法士を守る意味は分からんな…あなたはもっとクレバーな人だと思っていたが…」

 

 「その魔法を使えない魔法士を最初に狙ったのはどこの誰よ。完全無欠、デメリットゼロの術式なんて、このゲームには存在しない。あなたがあいつを最初に狙ったってことはまだ、あいつに利用価値があるってことでしょう」 

 多画城の言葉に息を呑む。

 遠距離攻撃完全無効化というレトリックに完全に騙された。

 まだ、俺にも打てる手が幾つかあった。



 読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。

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