第86話 私を助けてくれる人の口上
「まだ、私が残っておるのに大した余裕ですな」
エクシード流剣王グロス・アシミレイトは低い声で私達に語りかけてきた。
「そっちこそ、私達を倒してからショウ達を追いかけようなんて余裕かましてたじゃん」
「別に余裕をかましていたわけではありませんよ。救国の英雄ショウ様と剣王超えの真澄様、さらに同格のお仲間がお2人。あなた方4人を同時に相手をするのは得策ではないと思ったからですよ。自分達でばらけてくれるなら好都合。各個撃破の後、合流・挟撃して本命を叩くのは兵法の定石です」
そこで一息ついてグロスは空を見上げた。
「ただ、真澄様に時間を上げてもよいと思ったのも事実。ショウ様が姫様を裏切ることがあっても真澄様が姫様を裏切るとは考えにくい。あの呪い士の言うことを100パーセント信じきれないというのが私の本当の所です」
「そういえば、聞いてなかったけどその呪い士、RDHは私達のことをなんて言って予言したんだ」
「呪い士は旅の途中、偶然、エミリー姫を発見した。ショウ様の甘言に騙されて城を出奔した姫様は異大陸でショウ様達にまるで人形のように扱われ心身を衰弱した。あまりに不憫に思った呪いし(まじないし)は彼女を故郷につれ帰り、大規模魔法で姫様を回復させようとしている。しかし、ショウ様達は諦めていない。必ず奪い返しにやってくるというものでした。王は呪い士の言葉を信じ四方に守りを固められたのです」
「全くのデッチ上げだ。エミリーは異大陸で私達と出会い、多くの経験を得て充実した生活を送っていた。ああなったのは事故だ。私達はエミリーを救うためにこの国にやってきたんだ」
「事故!? 事故とおっしゃいますか!? ならばなぜ事故に陥る前に姫様を助けてくれなかったのですか。なぜ、事故を回避する方策を取られなかったのですか。姫様をお任せして足る人物と見込んでお頼みしたのに。わずか数日であの変わりよう。あまりにも無体ではありませんか」
グロスは事故という単語に猛烈に反応し私に喰ってかかってきた。確かに自分の愛弟子であり、使えるべき君主がああなってしまったのだ。事故なんて言葉で片付けていい訳もない。どうすべきか? いっそ全てを話すべきか。
「人生、山有り谷有りだ。常に山ってわけでもあるまい。谷の部分だけ見て判断するのは不公平だろう」
私がひとまず一般論を口にするとグロスは落ち着き深いため息をついて答えた。
「確かに自身の意思で城から出て行かれた姫様を知っている私としては、ひどく胡散臭い話に思えました。それでも呪い士の言葉は不思議と胸にストンと落ちました。あれも呪い(まじない)のせいだったのかもしれませぬな」
「だったら、そこをどけ。RDHがやろうとしていることはエミリーにとって救いにはならん。奴を倒し、私達がエミリーを救う」
「はははっ、迷いからか、つい口がすべりましたわ。何が正しくて何が間違っているかなどと一介の剣士には分りません。今は王命に従い、残りは剣にて語りましょうか」
グロスは豪快に笑い、剣を抜き鞘を捨てた。
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