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第858話 雨佐美禎継の戦う理由㊱

 多画城の狙いは三文字、唯一人。

 前衛上級職の魔法拳士が走ることだけに専念すれば、一息で目的地にたどり着く。

 多画城は接敵と同時に躊躇なく三文字の喉を狙った。

 詠唱妨害の常道である。

 だが、予想通り藤木谷が影から現れ、その拳を阻む。

 藤木谷は影使い。

 非物理体である影には多画城の豪拳も通りが弱い。

 しかし、それは藤木谷も同様であった。

 影による防御や転移こそ、脅威であるが単純戦闘能力はそれほどでもない。

 近接のエキスパートである多画城にダメージを入れられる力量ではない。

 それは藤木谷も理解しているようで、数度の打ち合いの後は防御だけに徹している。

 多画城も拳に光魔法を付与させて、攻撃しているが、いかんせん威力が弱い。

 炎の付与に比べれば雲泥の差だ。

 得意不得意、好き嫌いで魔法の訓練するからこうなるのだ。

 後でキツく言っておかなくては。

 いずれにせよ、互いに決め手を欠いた膠着状態が形成されていた。

 それは詠唱を完成させたいサベッジ・スピリット・セキュリティー社側からすれば、願ってもない状況だった。

 先に動いたのは多画城の方だった。

 突然、多画城の攻撃がヒットし始めた。

 

 「影による防御も、自動防御と分かれば対処は容易い。防御パターンを読みきり、フェイントを使って誤誘導するだけのこと。こんなのは障害物競争と何ら変わりない。私達と戦いたいならもっと複雑な防御パターンを修得することね」

 

 魔法職としての多画城の才能は三流もいいところだが、格闘職としての彼女の才覚は飛び抜けていた。

 よもや自動防御のパターン解析を行い、それを成功させるとは。

 俺では発想すらできなかった。

 簡単に自動防御の防御パターンの解析したと言ったが、事はそう単純なものではない。

 あの影は無尽蔵に展開していた。

 薄く広く展開させれば、装甲が薄くなるというタイプのものではなかった。

 藤木谷の視線、三文字の位置関係、そして多画城の攻撃位置。

 全てを計算に入れ、それぞれが過干渉する位置を割り出し、そこに誘導することで自動防御を突破した。

 脳筋だ、脳筋だと思ってはいたが、戦闘中とんでもない計算をさらっとこなす。

 相変わらずよく分からない女である。


 読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。

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