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第855話 雨佐美禎継の戦う理由㉝

 府天間が真っ直ぐ田伊中に向かって突っ込んでいく。

 防御力や攻撃力など、基本ステータスは騎士である田伊中の方が圧倒的に高い。

 剣士、戦士の上級職、【騎士】。

 【准騎士】はその【騎士】をさらに進化させた職業だ。

 味方であれば、その高い攻撃力と防御力で戦場の主役となる存在。

 最も頼りとされる基礎戦力で、何人いても困ることはない。

 対して、府天間の【忍び】は諜報、工作が主任務であり、戦闘要員ではない。

 戦闘はそれを回避できない時、仕方なく行うもので本業ではない。

 彼らにしてみれば、探知される時点で二流。

 人の耳目を集める技術など、好んで磨きはしない。

 必然、得意戦術は奇襲、不意打ちなどに偏ってくる。

 先程、弓納持を拘束したのも奇襲だった。

 だが、奇襲というものは心の隙を突いて初めて成功するもの。

 田伊中がどれだけ、若かろうが今の今、死人が出たのだ。

 当然、警戒はしているだろう。

 そんな中で再度の奇襲などできるものなのだろうか。

 さらに府天間はまだ、完調ではない。

 俺としては死力を尽くして時間を稼いだつもりだが、それでも、数分といったところだろう。

 それだけの時間で完全回復まで持っていくのは不可能だ。

 なにか策でもあるのだろうか?

 それとも、さらなる切り札でも持っているのだろうか。

 府天間なら、必ず持っている。その確信はある。

 なにせ、あの技量だ。間違いなく、俺と同等のレベルは持っているはずだ。

 同時に、こんな野良バトルでそれを開陳するのか? という疑念も湧く。

 切り札は秘匿しておくからこそ、切り札足り得るのだ。

 一度でも晒してしまえば、情報は漏れ、対策が立てられる。

 理想は切り札を切る直前直後の目撃者をゼロにすることだ。

 だが、府天間が広域殲滅系のスキルを持っているとは考えにくい。

 百歩譲って、俺達に目撃されるのはやむを得ないとしても、サベッジ・スピリット・セキュリティーのような営利企業に情報が漏れるのは極めてマズい。

 サベッジ・スピリット・セキュリティー社、内部で情報共有されるのはもちろん、情報の売買が行われるからだ。

 特にハイランカーの個人情報は高値で売れる。

 府天間なら、その程度のこと当然、理解しているだろう。

 だからこそ、疑問だ。

 府天間が切り札を出すほどの価値をこの戦闘に見出しているのか。

 


 読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。

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