第852話 雨佐美禎継の戦う理由㉚
「殺す! お前は僕が殺す!! この手で殺す!!!」
田伊中は怨嗟の目で俺を睨んでくる。
そうすると後方に飛び、構えを作る。
助走が必要な突撃系のスキルでも出すのだろう。
あえて、こちらから接近し、助走距離を潰すのも一つの手だが、藤木谷の動きも気になる。
三文字の護衛はどうしたのだ。
彼女の大魔法が完成したのか!?
確認するが藤木谷はまた、影に潜行したらしく姿がない。
三文字は詠唱を継続していた。
側には斧手良が控え、水も漏らさぬ警戒を継続している。
「【エクスピレーション・スティング】」
やはり、突撃系のスキルか。
田伊中が助走をつけ、刺突系の技を繰り出してきた。
よく見れば、得物がスピアーに変わっている。
突きだけに特化してきたのか。
だが、【魔法障壁】はきっちり作動している。
田伊中のスピアーは俺の身体を覆う障壁を突破できない。
はずだったが、田伊中は【魔法障壁】を無効化してきた。
貫通ではなく、無効化だ。
【二段突き】
剣士系の基本技の一つだが、俺には捌く技量などない。
一突き回避するのがやっとだ。
身体に大きな穴が開く。
それでも串刺しは避けらた。
「ひゃっひゃっひゃっひゃ。今度はお前が惨めにのたうち回る番だ」
一定のクールタイムは経過したはずなのに、まだ、【魔法障壁】が張れない。
さっきのスキルの効果なのだろう。
【魔法障壁】が張れない魔法使いなど、戦場では村人と大差ない。
今は逃げの一手だけを考える。
ステータスに異常はない。
ならば、これは状態異常系の攻撃ではないはずだ。
そもそも、【魔法障壁】だけを狙って無効化するスキルというのが胡散臭い。
あまりにマイナーすぎるスキルだからだ。
【魔術師殺し】などの特殊な職業を持つ人間の攻撃なら理解できるが、田伊中は【准騎士】のはずだ。
あのスピアーの特殊効果とも考えられるが、先程、確かに技名を叫んでいた。
ならば、やはりあのスキルの効果と考えるのが妥当だ。
他の魔法は発動できる。
にもかかわらず、【魔法障壁】だけが張れない。
これの意味するところは…
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