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第849話 雨佐美禎継の戦う理由㉗

 「【変動分身の術】」


 府天間の身体が無数に分裂する。

 【忍び】クラスの持つ【忍術】だ。

 【忍び】は攻撃に特化した魔法使いのような術が使える。

 但し、当然、魔法使いの使う攻撃魔法には劣る。

 術のレベルをかなり上げないと実戦では使えないとも聞く。

 府天間が狙ったのは【准騎士】である田伊中。

 全方位からの同時攻撃で田伊中の動揺を誘う。

 だが、斧手良がすかさず守勢に入り、府天間に仕事をさせない。

 分身に実体はなく、次々と斬られていく府天間。

 分身の動きは本体オリジナルに比べて明らかに悪い。

 速さもなく、動きにキレもない。

 目くらまし以外の意味があるのだろうか。

 府天間の様子ばかりを見ている訳にもいかない。

 気が付けば、弓納持も迫っていた。

 【無音走行】を使ったのか、まるで気付かなかった。

 多画城が冷静に壁役タンクの役割を果たし、俺への接近を許さない。

 だが、その腕は既に【毒手】に汚染されている。

 先程の【月光霖】では癒しきれていなかったのかもしれない。

 俺が近付き、回復させようとすると、強引に静止させられる。


 「馬鹿! 近付くな!! お前はお前の仕事に集中しろ!!!」


 多画城の両腕は燃えていた。

 皮膚を自ら燃やすことで【毒手】の感染を防いでいるのだろう。

 どこまでも豪気な女だ。

 ならば、そうさせてもらう。

 俺がこれから作る魔法は広域殲滅魔法。

 対象を指定範囲に閉じ込め、域内全ての生命体を殺す。

 チャージにやたら時間がかかるのが弱点だが、あいつらをまとめて倒すにはこれしかない。

 問題はまだ、開発中の魔法であること。

 成功確率が5割を切っているということだ。

 だが、【第一種攻性魔導士】の職を得て、魔力容量も上がっている。

 絶対に成功する。

 そんな確信があった。

 俺の両腕に異常な魔力が集束しているのを察知したのだろう。弓納持が強引に多画城を突破してきた。

 今、構成を消すわけにはいかない。

 瞳を閉じ、あくまで広域殲滅魔法の完成に集中する。

 弓納持が俺の目と鼻の先まで迫った時、突然、動きを止めた。

 府天間だ。

 地中から現れた府天間が弓納持の脚を掴んでいた。

 分身は全て、陽動。

 本体は俺の側でじっと息を潜め、弓納持を止める決定打なチャンスを狙っていたのだ。

 


 読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。

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