第848話 雨佐美禎継の戦う理由㉖
「弓納持に対しては府天間が当たった方がいいんじゃないか。直接、拳を交える以上、毒手の影響を避けられないだろう」
呼吸を整えながら、多画城に尋ねる。
武道家同士の戦いだと、どうしても掴み合いになる。
相手が許してくれれば、という前提に立つが回避に卓越する府天間の方が戦闘の相性はいいように思える。
「回避だけを見ればそうだけど、府天間君は私以上の紙装甲、それに魔法抵抗力も低いわ。一発喰らえば、それだけで落ちるわよ」
府天間は優秀な忍びだが、【忍者】という職業はそもそも戦闘職ではない。
敵対陣営に潜り込む、自陣に有利な情報をもたらすのが仕事だ。
戦闘は諜報を補助するための手段でしかないし、そもそも遭遇戦など府天間の最も苦手とする分野だろう。
「拙者もあの毒手使いのような敵は苦手でござるな。状態異常には幾分、耐性があるでござるが、アレは拙者の速さについてこられる御仁でござる。確かに掴まれば、それで終わりでござるな」
府天間が戻ってきて、会話に加わる。
やはり、弓納持の相手は荷が重いのか。
だとすれば、俺が相対するしかない。
近接前衛のエキスパートが相手か。
【魔法障壁】の出力を上げれば、物理ダメージは喰らわないが、あくまでそれは格下が相手の場合。
このクラスの武闘家であれば、当然、【障壁破壊】ぐらいは持っているだろうし…
先程のような奇策はもう通用しない。
切り札を切るしかないが、問題は二人を巻き込んでしまうこと。
まだ、敵が残っているということだ。
「とはいえ、それは一般的な【忍び】の話。拙者クラスの忍びになれば、対抗策の一つや二つ、当然、持っておるでござるよ」
胸を叩き、府天間が会釈してくる。
それはカラ元気のようには見えない。
「私もだ。あんなもの、拳士の進化としては亜流に過ぎる。先程は不意を突かれて動揺したが、種が割れれば対処は容易い。それよりも、また、無茶をしようとしただろう。さっきもそうだったが一人でなんでもできるなんて思うなよ。何のために私達がいると思ってるんだ!」
多画城に一喝されたことで、俺はようやく自分の戦術プランを見直す。
他人に全てを任せる戦術なんて、コレまで怖くてとても取れなかった。
だが、この二人になら、任せられる。
たとえ失敗しても納得できる。
そんな予感があった。
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