第839話 雨佐美禎継の戦う理由⑰
「妙でござるな…B組の中が随分と騒がしいでござる…」
まだB組の教室とやらは見えていなかったが、府天間は独り呟いた。
おそらく、【聴覚倍増】か【気配探知】を使ったのだろう。
俺には何の変化も捉えられなかった。
「あまり穏やか様子ではござらんな…少し急ぐでござる…」
それだけ告げると、目にも止まらぬ早さで先行していく。
俺も【身体強化】の魔法を使い、追走する。
【第一種攻性魔導士】を修得した時の副産物だ。
初回使用が戦闘以外、おまけに全力展開なのに追いけない。
なんだがケチがついた気分である。
不貞腐れながら、数十秒遅れで教室に到着。
いた! 多画城だ。
なぜか数名の黒服に囲まれている。
黒服は多画城をどこかに連れていこうしているのか?
倒れている者も数名いる。
絶命はしていないが虫の息だ。
教室の中がひどく散乱していた。
戦闘行為があった証拠だ。
府天間も抜刀して、黒服に対し構えていた。
イマイチ状況が読み込めない。
黒服は八束の人間ではないのか?
「おい、府天間はコレはどういう状況だ?」
「分からんでござる。ただ、そこで倒れているのは八束の生徒でござる。ならば、学園の警備責任者として、曲者は排除するだけでござる」
府天間の目には明確な敵意があった。
俺の不法侵入の時とは違い、値踏みの様子は一切無い。
不遇の職務であっても、関係ない。
与えられた職責はきっちり完遂するタイプなのだろう。
本気で怒っているのが分かった。
だが、同時に疑問も起こる。
府天間の探知を逃れられたということは、こいつら正規パスでココまで来たんじゃないのか?
あるいは正規パスを偽造したか。
どちらにしても、この黒服達、なかなかの手練だ。
それも複数人。
できれば戦闘は避けたい。
間を取り、全員の頭を冷やすか。
「おい、お前ら! 嫌がる女を無理矢理、拉致するなんて後味が悪いぞ。お前ら、ソコソコできるプレイヤーだろう。汚れ仕事は見えない場所で殺るのが華だ。日のさす場所でやるもんじゃねえ。あまつさえ、見つかったのにまだ続けてやがる。こんなダサい仕事はお前らの本職じゃないだろう。驥服塩車も甚だしい。どんな馬鹿が親玉だ?」
あえてユーモアを混じえた罵倒を行う。
ベタベタな方法だが、案外有効なのだ。
実力が高ければ高いほど、美意識も上がっていく。
高い美意識を持つ者ほど、程度の低い仕事に満足がいかないものだ。
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