第837話 雨佐美禎継の戦う理由⑮
罠の可能性もあった。
俺クラスのプレイヤーを倒した際の経験値は膨大だ。
仲間の元に案内し、密室でフルボッコにする。
そうすれば、ノーリスクで莫大な経験値を手にすることができる。
だが、当然、考えねばならないリスクを棚上げし、気付けば言葉が先に出ていた。
「たっ、頼む。彼女に会わせてくれ。俺はどうしても多画城に会って伝えたいことがあるんだ!」
多画城に会って何を言うのか?
そんなことも、まとまっていないのに…
無計画で、浅慮な思い付きだけの発言だ。
自分で言ってて嫌になる。
「了解でござる。善は急げでござるな。早速、行くでござる」
だが、府天間はこんな俺の行き当たりばったりの発言に付き合ってくれた。
立ち上がり、先導してくれる。
今日、始めて会う人間なのに何が彼を突き動かすのか。
府天間は無言のまま、進んでいる。
沈黙に耐えきれず、戯れに聞いてみた。
「さて、意外と本人には自覚がないものなんでござるな。権謀渦巻く八束の中で、尊きモノを見た。動く理由としてはそれで十分でござるよ」
笑顔で答えてくれたが意味が分からない。
はぐらかされたようで不快だ。
重ねて尋ねてみると、意外な答えが帰ってきた。
「ふむ…先程、述べた理由が動機の8割を占めるのでござるが…納得いかんでござるか」
そう告げると僅かに速度を緩め、俺に並走してきた。
「最初はスカウトのつもりでござった。八束の敷地に侵入しながらも、攻撃の意思を感じぬプレイヤー。しかも、上位職に付くプレイヤー。なんとか、丸めこんで、パーティーメンバーにできぬものかと考えてござった」
警備主任の癖に攻撃の意思が無かったのは、やはり、そういう思惑があったのか。
得心がいきながらも、疑問は残る。
ここはトッププレイヤーばかりが集まる八束学園。
パーティーメンバーの募集など容易いはずだ。
「八束は徹底的な実力主義でござる。但し、全ての人間が正統に評価され、職務を割り振られているわけではござらぬ。中には実力にそぐわぬ閑職に追いやられ、不満を持っている者も多いのでござるよ。有り体に言えば、拙者のような人間でござるな。拙者はもっと表舞台で間諜や情報収集に当たりたいのでござる。誰も侵入してこない本拠地の警備など、もっと格下にやらせればいいのでござるよ」
俺の心を読んだかのように府天間は言葉を繋げる。
変に相槌を入れるより、このまま続けさせた方が分かりやすいかもしれない。
「とはいえ、八束は実力主義。それを知らしめるには実績と力が要るのでござるよ。拙者一人の力では大した実績など作れはせんのでござる。拙者の本領はあくまで間諜と情報収集。折角、集めた有益な情報も、それを活かす仲間や組織がなければ、ただの情報にしかならんのでござる」
府天間は強い口調でそう述べた。
きっと彼に取っての譲れない主題の一つなのだろう。
「そこで拙者は考えたのでござる。無いのなら、作ればいい。拙者の集めた情報を活かす最強の組織、実績を作りだす実働部隊も含めて自分で作ってしまえばいいと。そのための情報収集をすればいいと」
読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
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