第835話 雨佐美禎継の戦う理由⑬
「特に大きなミスをしたわけでも、決定的な間違いをしたわけでもない。どうしてココから侵入したって分かったんだ?」
喋りながらジリジリと後退する。
近接戦闘職の、それも上位に位置するであろう忍道系プレイヤーを相手にこの距離はあまりに危険。
俺の悪あがきもとっくに見破られているだろうが、それでもやらないよりはマシだ。
この職業のプレイヤーは素早さ極化が多い。
気付いたら首を飛ばされていましたなんてことがザラにある。
俺が奴の視界に入った時点で生殺与奪の権利は握られていると考えるべきだ。
「ああ、それは簡単でござるよ。あなたが学園の周辺を偵察していた頃からマークしてたんでござるよ。武器を買うわけでも、素材を売るわけでもない。このエリアに入って真っ先に校舎の様子を探っていたでしょう。どう見ても怪しいでござるよ」
確かに俺は後退しているはずなのに、一向に間合いが開かない。
府天間はまだ座ったままだ。
何らかの【術】を行使しているのか?
思えば、俺の戦闘履歴は対NPC、対モンスターばかりだ。
高位の近接系プレイヤーとはやりあったことがほとんど無い。
駆け引きの経験値で既に負けている。
「さらに付け加えれば、あなたはそれだけのレベルにもかかわらず八束の名簿に乗っていなかった。こんなの怪しすぎるでござるよ。当然、このエリアに入った時点でマークが付くでござるよ」
なるほど、合点がいった。
高レベル施設を攻めるには、それなりの準備が必要ということか。
やはり、初手から躓いた。
こうなると、撤退の一択しかない。
だが、この敵を相手にして逃げ切れるものなのか。
「とはいえ、ここは英雄礼讃の八束学園。あなたが強者であるなら些細な無作法ぐらい咎めたりはせんでござるよ。むしろ、金を出してスカウトするのが道理でござる。魔術士殿が欲するのは何でござるか? 察するに情報ではござらんか? 拙者も情報収集なら一家言持っておるでござる。何でも聞いてみるでござるよ」
府天間はまるで友人の問いに答えるかのような気軽さで答えてくる。
思えば、ココまで攻撃的な意思表示はなかった。
警備担当というなら不審者など、問答無用で切り捨てればいい。
彼にも何か思惑があるのかもしれない。
折角、多大なリスクを払ってここにいるのだ。
もう少し情報収集をしてみるか…
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