第831話 雨佐美禎継の戦う理由⑨
その後、多画城とは何度も組手を行なったが自分の家のことを語ってくれたのはあれきりだった。
だが、なぜか彼女のくちゃくちゃになった顔が時折、ちらつく。
あの時、俺は本当に多画城の顔見ていなかったのか?
本当は今にも泣き出しそうな彼女の顔を見ていたのではないか。
その後、俺は【体術】をマスターし、【第1種攻性魔導士】を修得した。
回復については【聖】や【水】、【月】など派生が幾らでもある。
今までは道具を使えば、回復できる。回復にMPを使っては最大攻撃回数が減る。
そう思って取らなかっただけだ。
取ろうと思えば小一時間で取れる。
面倒だったので【第1種攻性魔導士】と【第2種攻性魔導士】、まとめて受験に臨んだのだが、機械的に通してくれた。
【第1種攻性魔導士】は魔導の大国エーベルトの国家資格だっただけに、何か奉仕義務でもあるのかと思っていたがそれもなく、拍子抜けしたぐらいだ。
こうして、俺は魔導大国エーベルトに滞在する理由はなくなった。
さてどうするか、折角、魔導大国エーベルトにいるのだから、最強の杖、魔法についての情報を集めるか、元の階層に戻ってグランドクエストを進めるか。
熟考しながら、気が付けば、多画城の道場に向けて足を進めていた。
珍しい。
滅多に行わない非合理的な行動だ。
歩きながら、ものを考えるといいアイデアが生まれてくるというが。
用が済んだ目的地に再び、足を向けるとは。
まあ、挨拶は重要か。
折角、彼女のおかげで【第1種攻性魔導士】を取れたのだ。
報告ぐらいは必要だろう。
きっと彼女は喜んでくれるはずだ。
それに多画城はああ見えて腕が立つ。
連絡先を交換し、一緒に狩りに行くという提案をしてみてもいい。
レベリングにしても、資金集めにしても2人の方が断然、効率がいい。
彼女が前衛、俺が後衛だ。
なにせ達人者級が2人もいるパーティーだ。
相当な大物を相手にできる。
きっと彼女も賛成してくれるはずだ。
そう、思い付くと俺は足早に駆けていた。
彼女の道場は住宅地の外れにある。
俺が本気で走れば、すぐそこだ。
息を切らせて、最後の角を曲がった。
だが、そこで俺は思いがけないものを見た…
多画城の道場が無くなっていたのだ…
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