第830話 雨佐美禎継の戦う理由⑧
「倶楽部じゃないよ。学校だよ。この制服見て分かんなかったかな、私は八束に通ってるんだよ~」
俺の攻撃を捌きながら、知ってて当然といった態で多画城は答えてくる。
今、俺がいる場所は魔導大国エーベルトにある多画城の道場。
絶賛、トレーニング中であった。
それも実戦形式の。
一応、魔法有りでの戦闘だが、近接戦のトレーニングだ。
やりたいようにやられている。
言葉で揺さぶれば、注意を逸らせるかも。
そう思い投げた問いだったが、なんの牽制にもならなかった。
秘密でも何でもないらしい。
組手の片手間に、多画城が自らのレベルの秘密を喋ってくれる。
まあ、知っていたのだが。
正確には調べていたのだが。
八束学園。
仮想世界で現実世界の教育の全てを賄う教育機関。
だが、それは表向きの内容で実態はトッププレイヤー養成機関だ。
たかがゲームプレイヤーのレベル上げにどうしてそこまで血眼になるのか分からない。
しかし、その熱量は確かだ。
どんな手段を使っても才能あるプレイヤーを獲得する。
荒っぽい手段を使うことで有名だった。
「意味が分からん。お前は良家の生まれだろう。わざわざ、特務機関モドキに入って何がしたいんだ?」
無詠唱で一小節魔法【過ぎたる松明】を使用。
俺と多画城との間に巨大光源が発生する。
本来は洞窟などでの光源確保のための初歩魔法だ。
それを有り得ないほどの魔力を込めて放てば、立派な牽制魔法になる。
常人であれば、とても目を開けていられないほどの光量だ。
だが、多画城に怯んだ様子はまるでない。
【気配探知】、【常時対象補足】、【心眼】でも持っているのだろう。
落ち着いた様子で俺の拳を捌き、そのまま、投げのモーションに入る。
「一人で生きていく力が欲しかったんだ。うちの家はそこそこ、巨大でね。お金も権力も持っている。擬似的な封建主義を未だに維持してるのがその秘密かな。そのせいで家長の決定は全てに優先される。親族は全て家長の決定に従わねばならない。自由な人生なんて私には無いんだよ」
手酷く床に叩きつけられ、息ができない。
そのせいで多画城の顔をまともに見ることができない。
悲しんでいるのか怯えているのかも分からない。
「けど、まだ足りないんだ。このぐらいのレベルじゃ多画城の家からは逃げられない。それこそ、生徒会役員にでもならなくちゃ…真の意味で多画城の家と伍することはできない…」
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