第828話 雨佐美禎継の戦う理由⑥
「おい、このメガトロサウロスの討伐はお前には無理だ。メガトロサウロスは膨大なHPを持つ。お前のしょぼい攻撃力では致命傷を与えられない。ここは後衛上級職の俺に譲れ」
ガラリとした冒険者組合の中で多画城は俺が凝視していたクエストをかっさらっていった。
多画城が持っていったのは俺がここ数日、準備を進めていた討伐クエストだった。
魔導大国エーベルト東に位置する大森林の最強種。
角竜メガトロサウロスの討伐。
巨大な四肢と圧倒的な質量を持つ陸戦最強の爬虫類。
頭脳こそ、それほどでもないが、生物ヒエラルキーの上位にいる生物だ。
達人者級であっても、単独で倒せるような相手ではない。
俺でさえ数日前から情報を集めて、やっと受ける気になったのだ。
なにしろ依頼者の元へ、その生態を尋ねにいったほどだ。
依頼者はダランベール。魔導大国エーベルトでも変わり者で有名な研究者だった。
どんな手段を使っても構わない。
討伐を成功させ、メガトロサウロスの牙を持ってこい。
そのためなら、報酬も情報提供も惜しまない。
そう告げられ、ダランベールの蔵書を漁った。
討伐前の情報収集の段階で、これだ。
その実力は推して知るべしといった感じた。
報酬が規格外のものでなければ、俺も受けようなどとは決して思わないほどの相手だった。
「お生憎様、メガトロサウロスは無尽蔵のHPを持つだけでなく、素早さと攻撃力も持っているのよ。しょぼい後衛の防御力じゃ、ワンパンで落とされるわよ」
多画城はノータイムで答えてきた。
どうやら、またクエストがかち合ったようだ。
多画城もまた、角竜メガトロサウロスの生態について調べていた。
流石に魔導大国エーベルトを見つけるほどの実力者だ。
難敵に対して情報収集ぐらいはするか。
「既に弱点分析は終わっている。当たりさえすれば3発で落とせる計算だ。奇襲とアウトレンジを併用して、メガトロサウロスの攻撃が届くまでに決めてみせる」
「それなら、私の方が勝率は高いわよ。確かに致命傷は与えられないけど、メガトロサウロスも私に致命傷を与えられない。持久戦になれば、最後に勝つのは私よ」
前衛らしい度胸も健在か。
あまりにも危なかっしい考え方だが、死線を潜る前衛上級職の考え方というのはこういうものだろう。
「簡単に持久戦というが、相手が1匹とは限らないのだ。周辺に他のモンスターがいる可能性だってある。全神経を集中させての持久戦など無謀すぎる。我々はアルゴリズムで動いているわけではないのだ。集中が切れれば、一瞬で終わるぞ」
「それなら奇襲戦のロジックだって一緒だよ。1発目を当てられる自信はあるんだろうけど、2発目、3発目はどうするつもりよ! 奇襲が通じなかった時、逃げる算段はついてるの? リスクとハザードの区別はついてるの? メガトロサウロスが遠距離攻撃を持ってたらどう対応するつもりなのよ」
俺の打ち込みに対して瞬時に返しただけでなく、痛いところまで突いてくる。
どうやら単なる前衛馬鹿だという認識は改めなければならない。
気が付けば、時間を忘れて話していた。
「不毛ね。分かったわ。だったら2人でいきましょう」
「それだと報酬が二分の一になってしまう。数日かけて、準備を進めてきたのだ。そんなもったいないこと…」
「馬鹿ね、質の不足は量で補うのよ。クエストの発注書をよく読みなさい。討伐数が書かれていないじゃない。ダランベールは高名な魔法研究者。メガトロサウロスの牙は希少素材。ダランベールの性格ならあるだけの予算分、メガトロサウロスの牙を買うわよ」
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