第827話 雨佐美禎継の戦う理由⑤
道場を求めて魔導大国エーベルトを彷徨ってはや一ヶ月。
成果は一向に上がらない。
路銀も尽きてきて、討伐クエストまで手を出す始末である。
道場自体は幾つか見つけているのだが…
俺の求める水準にはまるで達しない。
求める条件が厳しすぎるのかもしれない。
とはいえ、体術を覚えることで俺のこれまでの戦術思考に矛盾が生じるのはまずい。
あくまで、攻性魔法がメインで体術は従としたい。
そのためには体術一辺倒の筋骨隆々としたNPCでは駄目なのだ。
一旦、魔導大国エーベルトを離れ、もっと上層のプレイヤーが運営している道場に入門すべきか。
ただ、それもリスクが高い。
魔法職でどうして【体術】を極めようとしているのか色々、勘ぐられてしまうだろう。
【第1種攻性魔導士】の修得条件はまだ秘匿しておきたい。
この魔導大国エーベルトの座標もだ。
公開するにしても、ある程度の情報料ぐらいは貰いたい。
そのぐらい価値ある情報なのだから。
それが分かっていない阿呆もこの国に滞在しているのだが。
実はプレイヤーが開設している道場も見つけてはいるのだ。
だが、あいつはな…
発見自体が困難な魔導大国エーベルト発見し、尚且つ、道場までも開設する酔狂なプレイヤー。
名を多画城七実と言った。
職業は【魔法拳士】。
拳に炎や稲妻などを付与し、戦う前衛格闘職だ。
本人曰く、より強力な付与魔法を覚えるためにこの魔導大国エーベルトにやってきたとのことだ。
バリバリの前衛上級職のあの女がどうやってこの国を見つけたのかは検討もつかない。
偶然に偶然が重なって辿り着いたというが怪しいものだ。
おそらく腕は立つのだろうが頭の方はサッパリだ。
なにせクエストの片手間に【道場運営】を行なっているが道場はいつも閑古鳥が鳴いている。
それはそうだ。
魔導大国エーベルトに辿り着けたプレイヤーなど、皆無に等しいのだから。
それなら、NPCを相手に道場を経営すればいいと思うかもしれないが、ここは魔導大国エーベルトだ。
普通の人間は余暇に魔法の研究を行う。
【第1種攻性魔導士】の資格を取ろうとする者など、殆どいないのだ。
いや、全属性魔法を使える者がレア過ぎると言うべきか。
そんな魔導大国エーベルトで体術道場を開設してしまったのだ、資本主義を理解していないと罵られても仕方がない。
本人は誰も開設してないからこそ、需要がある。
魔導大国だからこそ、魔法以外を教える体術道場は儲かると主張していたが…
ちなみに全属性魔法を修得したエリート魔導士は国外で体術を修得してくるらしい。
つまり、【第1種攻性魔導士】は国外留学を奨励するための制度でもあるのだ。
そんなこんなで常時、金欠の我々はやたらとよく遭遇する。
それも小金目当てのしょぼい討伐クエストなどでだ。
相手の名前など、ちっとも覚えない自分がこうして顔と名前を一致させているのがいい証拠だ。
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