第802話 阿来津&雨佐美VS都洲河&春日井⑫
(分かったよ、ちくしょう。文字表示はやっぱ柄じゃね。俺の思考とあんたの思考を同調させる。俺の判断や経験をあんたに伝え、俺自身を可能な限り消去する。やったことはねえがやってみる)
追い詰められ、聞いたこともないような声で羅喜が応えてくれる。
その瞬間だった。
阿来津に対して尋常ならざる殺意が湧いてくる。
いや、殺意ではなく破壊衝動か。
ブチのめして、肉達磨に変えてやりたいという熱望。
目に映る全ての生命体を倒したい欲求。
なるほど、納得だ
これが平時から持て余している羅喜の破壊衝動なのだろう。
この渇望が羅喜の心の核。
行動の源泉。
こんなものを持って日夜戦いに明け暮れていたら、そりゃ【修羅王】と呼ばれる存在にまで辿り着いてしまうだろう。
だが、不思議なことに最初に感じた衝動が徐々に収まっていく。
羅喜が自ら宣言したように、自身の存在を可能な限り抑えてくれているのだろう。
そして、都洲河と阿来津の戦闘を眺めれば、まるで、こぼれるが如く戦術プランが浮かんでくる。
それも直感的にだ。
【憑依】であれば、おそらくあの衝動に飲み込まれ自我を無くしていた。
【同調】だと、処理速度が遅すぎて高速戦闘に対応できなかった。
【高次元同調】とでも名付けるこの状態であれば、相手が覚醒状態の【拳聖】であっても。
だが、こんな状態を長くは持続できないだろう。
【幽体】の一種である羅喜が己を消すなんていう離れ技をやっているのだ。
相当な負担だろう。
一気に勝負を決めねば。
静々と阿来津に向かって歩いていけば、都洲河を躱し、私に向かって襲ってきた。
ノーモーションからの超高速の一撃。
以前の私だったら、防御も回避も不能だ。
だが、今はハッキリ見える。
拳の軌道だけでなく、阿来津の意図までも透けて見える。
牽制からの急所狙い。真の狙いは心臓だ。
奴も一気に勝負を付ける気だ。
都洲河の邪魔が入る前に片付けたいのだろう。
完璧に格下扱いである。
牽制であるが故に全力での一撃ではない。
ダメージ覚悟で阿来津の拳をいなし、瞬時に懐に潜り込む。
私が想定外の動きを取ったため、阿来津の動きがコンマ数秒だが遅れる。
二の一撃がまだ、飛んでこない。
その隙を突き、正中線目がけて全力の掌底。
一足一刀の間合いの間合いまで追い出したら、そのまま【黄金気弾】を連続で放つ。
連続だと三発が限界。
しかし、回避予測位置に放った3発は尽くヒットする。
これまで、防戦一方だった【拳聖】を相手に攻撃が面白いように当たる。
これが羅喜の真の力なのか。
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