第8話 人生初のガチャガチャです
コールドベアーとの戦闘の後、私達はブラックフォックス×2、ダンシングフラワー×4、ビックトンボ×2、最後にオオツノシカと戦闘し1度も死ぬことなく情報管理局に戻ってきた。
いくらログイン初日だからといっても50シェル=50円も貯まらないとは…
やはり人生そう上手くは行かないものか。
せめて1時間500円ぐらいは行くんじゃないかと思っていたがもっとレベルを上げて効率的に狩をしないと儲けなんて出ないものらしい。
けど、ここからさらに武器、防具、道具なんかを揃えていくんだよな…
やはり、武器に金をかけない魔法使いとか武闘家が転職先としてはベターなのかもしれない。
まあ、今はアバター操作と戦闘への馴れ、レベルアップが当面も目標か…
転職についてはおいおい考えていくか。
情報管理局には武器屋と露店と酒屋が併設されていた。
ふと、はじっこを見るとガチャポン型の筐体があった。
「ねえ、ねえ、あれは何?」
私は、もはやなんでも知ってることになんの疑いも感じず、報音寺に尋ねた。
「ああ、あれはカード型ガチャポンさ! この世界では攻撃方法が大きく分けて3つある。武器と魔法とカードさ。カードはああいう風にガチャポンやショップで買うのさ。ただ、戦闘用のカードは使いこなすのが難しいから初心者で持ってる人はほとんどいないよ」
やはり淀みなく玄人のような答えが帰ってくる。
私も事前情報はかなり集めたつもりだったが上には上がいるものだ。
「ふーん、まあ、試しにやってみよう」
知らない事象に好奇心を刺激された私はバツの悪さを誤魔化す風を装い筐体の前に座る。
108シェルを払いスロットルを回した。
すると、金色に輝くキラキラしたカードがでてきた。
「ねえねえ、なんか、キラキラしたカードがでてきた!? これって高く売れるのかな?」
嬉しくてつい興奮してしまいパタパタとカードを振りかざしながら報音寺に尋ねた。
その瞬間、彼の顔は曇り、周囲の人間が急にドヨドヨとざわついた。
「おい、あれって」
「ああ、あの光沢間違いない、Sランク魔法カードの輝きだ!!!」
「何のカードなんだ。Sランクカードっていえばレベル差を根底から覆したり、天変地異を起こしたり、なんでも有りのチートカードだろ」
私のカードを見たプレイヤーが熱狂を込めて口々に感想をこぼしていく。
いつしか私のカード見たさに人だかりまでできている始末だ。
「あの、そのカード十万で売ってくれませんか?」
突然、びっくりするような値段で買い付けを受けた。
名前も知らない男だ。
人だかりの中から興奮ぎみに値段を提示してくる。
なっ、十万!!! この人本気なのか!?
「いや、おれなら二十万だすぜ。お嬢さん」
げっ、二十万!!! うそだろ、大卒の初任給だろそれ!
「お嬢さん、まだログインしたばっかだろ!? 初期装備一式完璧に揃えてさらに三十万でどうだい」
いかん、中古で車が買えるんじゃ…
その後も金額がどんどん上がっていく。
上がっていくのは金額だけでなく人の数もさらに増えていく。
これではまるで即席のオークション会場だ。
許可も取っていないのにこんなところで露店を開いて大丈夫だろうか。
いや、今考えるべきは売るべきか売らざるべきかの判断だ。
これは売ったほうが得なのだろうか???
しかし、この雰囲気まだまだ値はあがるぞ!
いやいやいやいや、そもそも適正価格はいくらぐらいなんだ。
いずれ高レベルプレイヤーになるならここは保存、あるいは自分で使った方が得なんでは????
とりあえずここはもったいないが一旦、ログアウトしネットで適性取引価格を調べるか。
そうやって頭の中で皮算用を働かせていると一団の中の重層騎士甲冑を着た男がニヤニヤと笑っていたのが一瞬見えた。
人に不快感を抱かせる嫌な笑い方だ。
隣にいる禿頭頭の男もニタニタと私の方を指を指して笑っている。
やけに気になる笑い方だ。
自然と警戒心を抱かせる。
そう思った矢先、禿頭の男がカードをかざして叫んだ。
「HPの10分の一を捧げ、魔法カード【飢えた魔獣の眼前】を発動!!! 転送先は第3階層、人狩の荒野!!!」
巨大な光が私達を覆う。
目を開ければ見知らぬ荒野に立っていた。
空は赤く、大地は草木一つ生えていない。
私ひとりだけではない。
周囲にいたプレイヤー全員がだ。
「なっ、何が起こったの!?」
あまりの事態に思わず声を出して尋ねていた。
おそらく犯人であろう重層騎士甲冑の男が言う。
「ほんとに素人か? お嬢さん、ビギナーズラックここに極めりだな! まさかカードの能力も知らねえのか?」
禿頭の男が続けて解説してくる。
「移動系魔法カード【飢えた魔獣の眼前】だ。HPの10分の1を捧げ自分の周囲の人間を高レベルモンスターエリアに飛ばす魔法カードさ。元々はパーティーのレベル上げ用のカードだが同意なしの強制転移させるカードだから使いようによっては今みたいな状況を作ることができるのさ」
「さ~て、本題だ、お嬢さん。そのカード俺たちに渡してもらおうか」
重層騎士甲冑の男が信じられない言葉を吐いてきた。
「はっ、馬鹿言わないでよ、最低価格が10万って状態なのになんでただで渡さなきゃダメなのよ」
「それは現実の世界の法律だ。この世界の法律はそうじゃない」
そう言うと大きな剣を抜いて地面に刺した。
「渡さないなら殺してドロップさせるだけだ」
「なっ、なに考えてんのよ!!! そんなこと許されるわけないでしょ!!! ほら、誰かなんとか言いなさいよ」
なぜかさっきから私の周囲の人間が誰も抗議の声を上げず、沈黙している。
あれだけ饒舌だった報音寺の姿も無い。
彼は転移に巻き込まれなかったようだ。
「無駄だよ、お嬢さん。ここは第3層、第1層始まりの街付近でウロウロしてたようなやつらじゃ、この階層の雑魚すら倒せない。こいつら全員、今はどうやって無傷で街に帰るかそれしか考えてねえよ。死んじまったら経験値は減るし所持金だって減る。アイテムも全部を持って帰るのは無理だ。それが現実世界でどういう意味をもつことか」
重層騎士甲冑の男は信じられない言葉を続ける。こんな公衆の面前で堂々と恐喝を行い、強奪の算段を大声でしてくる。
「それにお嬢さん、この危機を招いたのはあくまでお前のせいだぜ。あんな公衆の面前でSランクカードを見せびらかすからこうなるんだ。お前の不用意な行いのせいでここにいる全員が迷惑してるんだぜ。ならこうしようお前がカードを渡せば報酬としてここにいる全員を元の街まで送るクエストを無償でうけてやるよ。オレもわざわざプレイヤーキルを行って警察や賞金首にかけられたくないしな」
さらに信じられないのはそれを誰も咎めないことだ。
いや、当然か。誰もが自分の情報体の行方を案じているのだ。
重層騎士甲冑の男にに言われるまでもなく私だって理解している。
「ああ、ついでにこいつらが束になってかかってきても全員返り討ちにできるぜ。俺らは第4層を主戦場にしてるレベル150のプレイヤーだ。普段は竜の群れを相手にしている俺等だ。雑魚プレイヤーを燃やしつくすことぐらいわけない。あるいはこのままお前からカードを奪わずに放置するってのも面白いかもしれないな。おそらく、さっきまで紳士的に買い取りを依頼してた誰かがお前をプレイヤーキルしてカードを奪うぜ。そうして俺等に謙譲してさ。どうかこのカードを渡すので元も街までつれて帰って下さいってな」
この状況の当事者が私であるだけで、もしカードを引いたのが報音寺や清水谷だったとしたら私はどう行動するだろう。
「そうなるとお前のたった一つのアバターがこうして、無限PK状態になって死んでしまい、二度とログインできなくなるぜ。そうして、二度とセカンドワールドオンラインにログインできなくなりネットも使えない三流市民となるか」
私は彼らのために自分の情報体を捨ててまで勝てない戦いに挑むだろうか。
答えは否だ。私は彼らを助けない。だから私を助けない彼らの選択は間違っていないのだ。
「さあ、どうする?、カードを渡すか? 俺に殺されるか? それとも目こぼししてもらい周りの人間に裏切られるか?好きなのを選べ」
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
けど、他にどうしようもない。ここで死んだら階層が違うからおそらくここがセーブポイントになってしまう。
レベル1の私じゃ第1階層までみんなを送り届けることなんてできっこない。
こんな場所に巻き込んでしまった責任もある。ネットが使えなくなれば就職どころじゃない。ネットでモノ一つ買うこともできないのだ。
セカンドワールドオンラインと日常生活が密接に関わりすぎてる今では無限PKはネットの使用禁止を意味するからだ。
屈辱に震えながら私は答えを告げた。
「カードをわた…」
ううっ、なんとか更新できた。また感想などあればお願いします。