第796話 阿来津&雨佐美VS都洲河&春日井⑥
私は阿来津に向かって静かに歩く。
口元に歪んだ笑みを浮かべて。
何か策でもあると思わせられれば上出来だ。
ハッタリも有効な武器なのだ。
何かあると思わせられれば、大胆な行動を封じることができる。
心理戦においては最大の武器の一つだ。
ちなみに【黄金気】と【聖皇理力】の並列展開は維持している。
だが構えはない。
両腕は無防備に垂れ下げている。
こんなものは流れ弾で死なないための保険にすぎない。
そんなことに脳内処理を回している余力はない。
持てる力の全てを思考に費やし、阿来津の精神を論破撃滅するのだ。
「へっ、ようやく覚悟を決めたみたいだな。いい面してるぜ」
私がなんの策も弄さず、近づいてきたことを不審に思ったのだろう。
阿久津の方から声をかけてきた。
一足一刀の間合いに入った瞬間のことだ。
この男、馬鹿ではない。
これがこの男なりの牽制、様子見なのだろう。
後方では雨佐美がしっかり詠唱に入っている。
詠唱が完了すれば、嵐のような連続攻撃が飛んでくる。
できれば早くに决めたい。
だが、ここで焦りは禁物だ。
私はできるだけ余裕をたっぷりもって第一射を放つ。
「そういうあんたはブレブレね、阿来津」
軽い挑発だったが阿久津は反撃してこず、じっとこちらの成り行きを見守っている。
問答無用で殴りかかってくるかと思ったが。
もしかしたら想像以上に阿来津の内面は揺れているのかもしれない。
だとしたら行幸だ。
ようやくツキが回ってきた。
「心服の同輩が敵に回って不安? それとも、ようやく自分が間違っているかもという仮定ぐらいには辿り着けた?」
阿来津は反応しない。
聞き流しているようにも見えるし、熟考しているようにも見える。
表情からは窺い知れない。
まだ、揺さぶりが足りない。
もっと苛烈な言葉で責めないと。
「簡単に捻り潰せると思ったのに予想以上に強かったんで困惑してるんでしょう。あんた達は最初の想定から間違いだらけなのよ」
阿来津の精神構造はシンプルだ。
弱い奴の言ってることは間違っており、強い奴の言うことが常に正しい。
理非善悪で考えるのではなく、実力で考える。
だからこそ、相応の実力を見せた私からの問いかけを無視できない。
「今さら問答かよ。悪いがそういうのは俺の仕事じゃねえ。弁舌を振るいたいなら他を当たるんだったな…」
ふいに、阿来津が返事を返してきた。
もっと挑発が必要かと思っていたが早かったな。
言われっぱなしが我慢できなかったんだろう。
どこまでも中途半端な脳筋だ。
会話が成立してしまえば、攻略は容易い。
さあ、私の真価を見せる時だ。
読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
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