第795話 阿来津&雨佐美VS都洲河&春日井⑤
今後の戦いを考えれば、【スキル】や【第3系統外】などに頼りすぎるのは危険ということか。
ハイランカー同士の戦いでは【カウンタースキル】や【無効化系スキル】を持ってて当然とは我ながら、随分と遠くまでやってきたものだ。
都洲河は指摘してこなかったが状況対応能力を磨くためには地力の底上げだけでなく、それこそ、判断力や分析力と言った思考力を含めた全能力の底上げが必要だ。
やることいっぱいだな…
それにしても【拳聖】と【高位魔法使い】のコンボは厄介極まりないな。
近距離、遠距離のハイランカーが単独でも厄介なのにあの完成された連携。
実はあの連携が最も脅威だ。
つけ入る隙がまるで無い。
まるで棋士の棋譜を見ているかのようだ。
甘い手法は尽く潰されている。
まさにプロフェッショナルの手による完成された運用だ。
付け焼き刃な発想では太刀打ちすらできない。
その証拠に私達は防戦一方だ。
それでも先程の攻防で唯一、見せ場があったすれば、雨佐美を強引に狙った点か…。
阿来津の動揺を誘えたし、雨佐美にはダメージを入れられた。
おそらく、あれは新手だったのだろう。
研究されてない攻撃を行なったがために阿来津は反応できず、キレた。
だとすれば、有効なのは相手の想定を上回るトリッキーな手法で撹乱することだ。
そうして、2人の内どちらかを先に潰す。
そういう意味で狙い目なのはどちらだろう?
阿来津だろうな…
一定以上の負荷を与えれば、確実に潰れる。
肉体がではない。
心がである。
【拳聖】としての技量は完成しているが心が追いついていない。
イレギュラーな展開に弱く、自分で考えることができていない。
誰かを妄信することで自分の立場を成り立たせている。
先程の都洲河への怒りもそうだったのかもしれない。
あれほど激昂したのは裏切りに対する怒りではなかったのかもしれない。
道を示してくれる人間がいなくなってしまうこと。
そのことへの恐怖が阿来津をあれほど頑なにしてしまったのではないか。
攻め入るべきはそこか…
「都洲河、私が戦術指揮をしてもいいか? 少ない可能性だが賭けてみる価値はあると思う」
私は隣にいた都洲河に囁きかける。
ハイランカー相手の決戦である。
戦闘経験値の少ない私がでしゃばるのもどうかと思ったのだ。
しかし、都洲河は長年連れ添ったパートナーのように返してきた。
「お得意の悪魔の閃きがようやく下りたのかね。全く遅いのだよ。こちらに異存はない。十全にこの【魔王】をこき使うといい」
【魔王】は不敵な笑みを浮かべて、私の指示を待っていた。
「まずは私が口撃を加える。都洲河は私の口撃の邪魔にならない条件下で阿来津の動きを止めて。その上で雨佐美の攻撃から私を守って。狙うは【拳聖】の精神。鍛え忘れたその心を木っ端微塵に吹き飛ばす」
都洲河の言った通りだ。私は歪んだ笑みを浮かべて、真っ正面から【拳聖】に挑んでいった。
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