第786話 我孫子陣営の守りを突破せよ⑧
「へっ、陛下…」
これまでの武人とした佇まいから一転、呆けたような雰囲気でアウラングゼーブは我孫子の前に跪く。
「重ねて告げるが、自重しろ、アウラングゼーブ。お前のためではなく、俺のためにな」
それだけ告げると我孫子は颯爽とアウラングゼーブの隣を横切る。
「はっ、はっはぁぁぁ」
声にならない声を上げ、アウラングゼーブは膝をつき服従の意を示す。
未だ戦闘中であるにもかかわらずだ。
一方、飾磨巧はそれをニヤニヤと観察していた。
戦意が喪失したわけではなく、興味の対象が我孫子へと移ったのだろう。
「さて、俺の本陣に奇襲をかけるとはどれほどの猛者だと思ったがよもや、身内の仕業だったとはな…なんのつもりだ、飾磨巧? この俺に戦を仕掛ける気か?」
詰問する我孫子の表情は硬く、とても馴れ合う雰囲気ではない。
飾磨巧の返答如何ではそのまま、我孫子軍VS飾磨巧の構図が完成する。
現にアウラングゼーブが凄まじい形相で飾磨巧を睨んでいる。
周囲の帝国兵の様子も同様だ。
飾磨巧の思いつきによる行動は決定的に我孫子軍の誇りを傷つけたのだ。
「とても面白い提案で心惹かれますけど~総力戦に持ち込まれるととまだ私の方が負けそうなんで止めときます。先輩は~怒らせるとすぐに大軍をちらつかせるから嫌ですね~」
流石の飾磨巧もまだ、我孫子には勝てないらしい。
口調こそ、ふざけているが一転してしおらしい態度を取っている。
我孫子との全面戦争は飾磨巧の望むところではないのだろう。
「一つだけ~思い違いをされてるみたいなんで訂正しておきますけど~ただ同じ学校、同じ生徒会に所属しているというだけで部下になった覚えはありませんからね。私のボスはあくまで不知火さんですから~まあ、今回に限っては春日井さんの手管を褒めてあげて下さい。私はただ、春日井さんに動かされただけですから~私の手落ちを利用しての助っ人参戦。1回こっきりのワイルドカード~【泣かない乙女】によって書き込まれた【超越者達の十字架】の称号の効果かな。彼女、本物ですよ」
まるで意味は分からないが我が事のように喜ぶ飾磨巧。
「…なるほど。だから、あの男が任務も果たさずにここにいるというわけか…」
我孫子がそう告げると都洲河がどっしりとした足取りで近づいてくる。
まだ、合図を出していないのに。
役者がそろったことに待ちきれなかったか。
相変わらずの存在感だ。
あれほど戦意旺盛だった帝国兵が率先して道をあけている。まるでモーゼの海割りだ。
「任務を果たさずにここにいる訳でありません、我孫子書記長。私は任務に失敗したのです」
一切、飾ざらない言葉で都洲河は現況を述べた。
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