第785話 我孫子陣営の守りを突破せよ⑦
「私の勇気専用装備【星の嘆きを沈めし者】は物体や魔法を斬るのではなく条理を斬る」
誇るでもなく、昂ぶるわけでもなく飾磨巧は淡々と事実を語る。
「今、私はエネルギー伝達系を斬ったのさ。陣形術の構成要件を叩こうとも思ったけど、面倒だしね。たまには勇者専用器のスペックをフルに使ってあげたいからね」
なるほど、全ての兵士から極小のHPを分けてもらうことで先程の術式は成り立っていた。そのエネルギー伝達経路を断ったのでアウラングゼーブのHPは元に戻ったというわけか。
「これで無尽蔵のHPも封じた。自信の根拠も砕けただろう。このまま挑んでも死ぬだけだ。それでもまだ来るかい?」
感情が読めない顔で飾磨巧はアウラングゼーブに最後通牒を突きつける。
何度目かの停戦の誘いだ。
「貴様の存在は害悪そのものだ。敗者に対する敬意も勝負に対する真剣さも存在せん。弱者を嬲る異常性すら感じない。ただ、戦闘を作業のようにこなしている。そんな輩をこの先へ進めるわけにはいかん!」
そう、先程からずっとそうだった。
飾磨巧の言葉には熱がない。
相手を労っての言葉ではなかった。
作業を一つ省略するためのただの措置だった。
「へえ~そのレベルになると、そんなことまで分かるんだ。君も、もう少しレベルを上げれば高速演算型NPCやNPXCにでもなれたろうにね、残念だ」
「命を失うことなど恐怖ではない。ただ、私がここで倒れれば、この先、皇帝陛下のお役に立てない。それだけが心残りだ」
「それなら、素直に道を開けるなり逃亡するなりすればいいのに~こっちも我孫子さんの兵をあまり毀損したくはないんだけど~」
「やはり、貴様とはどこまでいっても並行線だ。先程の女の方が幾分ましだ。私は死んでも道を譲るつもりはない。先に進みたくば、私の屍を越えていくことだ」
「じゃあ、そ~させてもらうよ」
飾磨巧はそれだけ告げると雷速の動きで再びアウラングゼーブからハルバートを奪う。
アウラングゼーブに防ぐ手立てはなく、雷撃によるダメージで動くことすらできない。
しかし、飾磨巧に容赦はない。二度と立ち上がってこないように心臓を貫くつもりだ。
ここでようやく、私は我に帰る。
敵であってもアウラングゼーブは好人物。死のその瞬間まで我孫子に忠義を尽くそうとしている。
これだけの人物を見殺しにすることは講和の意思に背くことになるのではないか!?
「待っ…」
しかし、私が声をかけるより早く、飾磨巧の手からハルバートは消えて無くなっていた。
「お前ほどの人材を失うのは我が帝国にとって損失だ。そこまでにしておけ、アウラングゼーブ…」
そこに立っていたのは私達の最終目的である【皇帝】我孫子だった。
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