第782話 我孫子陣営の守りを突破せよ④
冗談じゃない、そんなにあっさりと負けを認められるものか。
だが、落ち着け。
クールになれ。
これは飾磨巧の挑発なんかじゃない。
飾磨巧は思いついたことをそのまま、言葉にしているだけだ。
彼女の言葉には熱がなく、文字通りゲームの攻略法を読み上げているだけなのだ。
従って悪意はない。
その言葉に対して無性に腹を立てている自分を抑えられないだけだ。
「あるいはこの【陣形術】に参加しているNPCを皆殺しにするとかもいいかもね。供給元を断てば、普通に強いNPC程度の力しか持ってないから春日井さんの敵じゃないよ。全部と言わずとも半数ぐらいまで減らせば春日井さんにも勝機があるんじゃない」
またしても、悪意のない感想を述べてくる。
だが、今の一言で分かった。
彼女と私とにある決定的な認識の違いが。
私と飾磨巧では同じプレイヤーであっても基本理念からして大きく違っていたのだ。
彼女はハイランカーであってもNPCを物語の脇役程度にしか思っていない。
私はNPCを新たな人類種の一人として捉え始めている。
NPCをデータ扱いするプレイヤーとはそもそも話が合わなかったのだ。
アウラングゼーブを倒す前にコイツを殺るべきか。
精神安定のためにはそのほうがいい。
そんな考えすら浮かんでくる。
飾磨巧の舐めた態度のおかげでむしろ頭が冷えてきた。
彼女はただの置物。
こちらに攻撃を加えてこないだけ、儲けもの。
倒すべきはアウラングゼーブ。
飾磨巧のおかげでアウラングゼーブの強さのカラクリも分かった。
今やるべきことは飾磨巧は無視し、アウラングゼーブの打倒に集中すること。
「頭の切り替えが早いね、春日井さんは。ハイランカーのそれと変わらないぐらいの早さだ。さっきまでカッカした目で私のことを見てたのに…私と同い年でそこまで上手く感情の処理ができるプレイヤーなんて随分と久しぶりだよ」
そう決めた瞬間、また置物から声がかかる。
相変わらず、こちらの間を潰すのが上手い。
「とはいえ、今のは私の失言だったかな。君もNPCを人間扱いするタイプなんだね…そういうタイプはここから先、辛いよ。私なんてなまじ間近でそれを見てきたから余計にそう思うよ。経験者は語るって奴だね」
そう語る飾磨巧の声には僅かな憂いが秘められていた。
そうして、手にしていた菓子袋を地面に無造作に投げ捨てる。
「ちょうど食べ終わったし…まあ、さっきの失言の謝罪代わりにこの場面ぐらいは引受けてあげようかな」
飾磨巧は大きく伸びをして暢気に準備体操をしている。
思わぬ参戦の申し出。
あまりにも予想外の展開のせいで私はどうリアクションすればいいのかも分からない。
読んで頂きありがとうございました。次回の投稿もなんとか頑張ります。
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