第78話 話はセカンドワールドオンラインの中で
「おい、報音寺。力を貸せ」
私が手を引かれてついた先は下駄箱だった。そこには今まさに、帰ろうとする報音寺君の姿があった。
「今、エミリーがどこにいるか調べろ。ついでに壊れたエミリーを救う方法も教えろ」
「ったく、清水谷は強引だな~。初心者のオレが知るわけないでしょ」
オーバーな表現で報音寺君はかぶりをふった。
「わけの分らん演技をいつまで続けるつもりだ。紅メガネ。オレの知ってる情報を12神将にリークするぞ」
それが脅しになったのだろうか、報音寺君はスラスラとしゃべり始めた。
「彼らは優秀だからとっくにオレの位置なんか把握してるさ。それでエミリーの場所だけどね。正確な場所はトレースしてるけど、行く方法がないというのが正しいかな。壊れたエミリーを救う方法は悪いけど全く心当たりがない。興味はあるけどね。清水谷のお姉さんにでも聞いたらどう?」
祥君の脅しに対して嫌味でも返したのか、祥君は露骨に顔を歪ませた。
「おい、ショウ。第2新聞部の三重野先輩はエミリーの行方をロストしていた。憑依させていた霊を払われていたらしい。って、真澄。復活してたのか。不細工な面を拝んでやろうと思っていたのに。まったく、立ち直りの早いやつだ。」
渚も自分なりにエミリーの行方を捜査していてくれたらしい。私を見るなり憎まれ口を叩いてきた。
「まあ、現実世界で話をしていても始まらないから、ひとまずログインして16時に情報管理局の前に集合っていうのはどうだい。そこでなら出せるだけ情報をだすよ」
報音寺君がそう提案してきた。誰も異存はなかった。確かに現実世界は私達は単なる力を持たない学生にすぎない。私達の真価は仮想現実の中でこそ発揮されのだから。
◇◆◇
自宅に帰った私はすぐに荷物を置き、エアコンをつけインフィニットステーションを装着する。
インフィニットステーションを付けただけで呼吸が過呼吸ぎみになるのが分る。呼吸が苦しくて心臓が締め付けられるのが分る。
ただ、ログインするだけでこれほど精神と肉体に負荷をかけるのか。なるほどこれがログイン恐怖症か。もういちど、ログインしたとてエミリーを助けられる保障などどこにもない。また、苦しい思いをするだけではないのか。
エミリーを失ったとて日常に変化はなかった。独りに戻るとそんな弱きが鎌首をもたげてくる。
いや、これがまやかしだ! エミリーを取り戻さなければ私はずっと後悔を引きずったまま生きることになる!! たとえ取り戻せなくとも全力でぶつからなければ必ず卑屈に生きることになる!!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!エンター・ザ・セカンドワールドオンライン!!!」
迷いを叫びで消して私はログインした。
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